デートとは男を浮つかせる甘美な言葉

 土曜日とは、学生。それも特に厳しい部活などに所属していない者達が筆頭にすこぶる元気になる日だと言える。そしてこの俺土師ノ里俊もまたそのうちの一人だ。というか今日は特にそうだ。

 空を見上げると青い綺麗な空に真っ白な積雲が広がっており、今日の天気がとても良いことを示していた。そして俺はすでに天気予報でそのことを把握していたが、改めてそのことに喜びを感じふっとクールに微笑む。

 今日は奏さんとのデートである。そうデートだ。男女が仲良く遊ぶのだからこれは主観的にも客観的にもデートと言っていいはずだ。それを否定する人間がいたら俺は決して許さない。そう絶対に許さん!略して絶許!

 さて俺が今いる場所は駅から降りたホーム。この場所はまさにTHE都会と言った感じだ。そもそも駅から降りて出たら大きなビルが左右にあり、そこは女性が好みそうなファッション専門店が並んで降り、ちらりと服を見たがどれも高そうだ。ブランド志向がない俺にしてみれば値札を見て万越えであれば即却下するのだが、世の女性はこれを買うのが常識なのだろうか?あまりよく知らないから俺にはわからない話ではあるが。

「10時45分か」

 集合時間は11時というあまり早すぎない。むしろ少し遅いほどの時間である。朝6時には目がさめる自分にとってはなかなかこの時間までは長い。お陰で今日は朝起きるなり、散歩して本一冊読んでしまったぐらいだ。それでも時間が余って、バーピー(クロスフィットにおいて、もっとも頻繁に行われるワークアウトのひとつ)をし始めたまである。そして舞はそんな兄を見て「何朝から騒がしくしてんだ」的な目で見られてしまった。妹よ兄をそんな目で見てはいけません!

 そして目的地についても未だ集合時間の15分前。15分前行動は日本では賞賛されるかもしれないが、正直15分は移動するには微妙な時間だから困る。まぁ電子書籍で読書していればいいのですけどね。

「ごめんさい。待った?」

 そうして俺がスマホで読書をしていると後ろから奏でさんの声が聞こえてきた。

「いえ、俺も来たばかりですし、まだ10分前ですよ。謝る必要はないです」

 待たせたことに少し申し訳なさそうな顔をする奏さんであったため、俺はそう声をかける。実際集合時間を守っているわけだし非難するつもりなどない。これが潤はともかく、蒼太も時折時間を守らないから奏さんはただでさえ高い好感度が上がっていくだけだ。

 そして俺はここで奏さんの格好を失礼のない程度に見る。藍鼠色のブラウスに淡いピンクのテーパードパンツ。足は白のサンダル。そして左腕にはおしゃれな時計そして右肩には小さな飴色のバックが掛けられている。なんとも大人な女性といった感じである。それは奏さんが女性の中では高身長であることも理由だろう。とても脚が長く、ウエストも引き締まっているように思える。まさに美人という言葉がよく似合う。そして普段の髪型はロングであるが、今回は違う。ポニーテールなのだ。そうポニーテールなのだ。大事なことなので二回言いました。

「どう?似合ってる?」

 クルリと一周しながら無邪気に俺に感想を求めてくる。それに対する返答など決まっている。悩むまでもなかった。

「とても似合ってますよ」

 特にポニーテールとか、ポニーテールとか、ポニーテールとか!

 俺は髪の長い女性が好みである。そこにポニーテールが加わればそれはもう最高である。そう最高と表現するのがふさわしいのだ。

 だがここで一つ留意してほしいことがある。それはポニーテールであれば誰でもいいということではないということだ。ポニーテールにすればどんな女性であれど魅力的であるというのは間違いである。

 ポニーテールが似合うというのは人によってそれぞれ意見は異なるかもしれないが、俺から言わせればポニーテールが似合う人の条件は内面などから出る雰囲気も必要だ。似合うかどうかはそういったただ顔が可愛いからとかだけではなく総合的に判断しなければならない。そして総合的に判断した場合俺は可愛い人というより大人な人。言うなれば年上の余裕などを持ち合わせた女性こそポニーテールにふさわしいと俺は主張したい。無論可愛らしい人がするポニーテールするのも素晴らしいと言えるだろう。だが俺はそう大人な雰囲気を持ち合わせた方が好みなのだ。

 つまり俺が思う最高にポニーテールが似合う女性を定義すると、大人のように落ち着いた雰囲気があるようで、その中に少し可愛らしさも含んだ人。スタイルも含めると女性の平均身長より高いと嬉しい。そして服装なども考慮すべきだ。落ち着いたような派手過ぎないかといって地味過ぎないものがいいのではないだろうか?

 個別具体的にあげていけばまだまだ色々な要件が出てくるかもしれないが、それにはあまりに時間がなさ過ぎるので割愛させて、今回あげたもので奏さんに当てはめるとしよう。

 奏さんは俺よりも年上ということもあってか、そのような振る舞いが見られる。ところどころ余裕がない感じがあるが、それはまぁご愛敬だ。それに学校生活を聞いていると、しっかりと授業を受け(俺と違って寝たりしないらしい)友達こそ少ないが先生の評判も素晴らしい(栂先生情報)。しっかり責任を持ち行動する姿勢は早々誰でもできるものではない。そういうことも踏まえると十分内面的素晴らしさは俺と比較するほどでもないほどよくできた人間だ。俺なんか教師の評判はあまりよくない。勉強できるサボリ魔というのが評価だ。失礼なことだ。サボりにはサボりなりの美学があるのにわかっていない。

 俺の話は置いて話を進めよう。奏さんは女性の中でも高身長で、普段あまり運動自体は少ないそうだが、それでも週に何度かは散歩をし、食事も時折本当に効果あるのか些か疑問な事もあるが、王道な方法を基礎に行っていることから、スタイルも良く。モデルにスカウトされんじゃね?と思えるほどだ。そして今回の服装だ。あまり詳しく服について知識を持ち合わせていないが、それでも言えることがある。それは好きか嫌いかだ。そして今回の奏さんの服装はまさに派手過ぎず、地味過ぎず控えめに言って好み。というか大好きです!

 長々と説明させてもらったが、一言で結論を言え!などと言われるかもしれないから、最後に一言で言わせてもらう。

 マジでタイプです!

「そう?ありがとう」

 どうやら奏さんは俺の心のお祭り騒ぎには気づいていないのか、純粋に俺の言葉を嬉しがっていた。よかった。おそらくこれを口に出していたならそれはもうドン引きだっただろう。間違いない。俺が言われたら間違いなくドン引きしていたからだ。

「さて、それではそろそろ行きましょうか」

 これ以上この場に留まるのももったいない。

 流石は休日、実に人が多かった。またこの場所が駅に近いこともあってか、仕事に向かうまたは何かこの近辺で仕事のために赴いている人もちらほら見かけた。俺は将来必死に働きたくないため、それを見ると軽く尊敬の念を抱く。マジ働きたくないでおじゃる!

 だが、それでも遊びにここにきている人が大半でその顔は実に楽しそうなものだ。家族、カップル、友人同士それぞれそのコミュニティの中で実に楽しそうだ。俺もその空気に乗ることにしよう。

「さて、どこに行きましょうか?」

 特に予定を決めていたわけでもないため、俺は奏さんに尋ねる。だがそこで俺はハッとした。

 ここは一つ俺がプランを決めておくべきではなかったのではないだろか?という疑問である。奏さんが喜びそうなものを事前に調べ上げ、エスコートすれば好感度もうなぎのぼりであったのではないだろうか?なんということだ!これではラノベによく出てくる鈍感系かつ今まであまりモテてこなかったような主人公ではないか!

 しかし実際どうなのだろう?俺は結構予定なしに色々見て回ることが好きだし、お互いの好みをしっかり知っているわけでない状況下では、むしろそれはあまり良い選択ではないのではないか?下手にプランを決めて、それが好みに合わなかったらむしろ最悪ではないか。というならばあらかじめ二人でプランを決めておくのが正解なのかもしれない。

 なぜ俺は、連絡を決めておいて当日の予定を決めておかなかったのか……

「そうね……映画なんてどう?」

 俺が後悔の念に駆られているときに奏さんから提案される。

「いいですね。映画にしましょう」

 映画、実にデートで定番の場所である。二人で同じ作品を楽しむことによってお互いに共通の体験ができ、その後の会話もスムーズに進む。デートとしてチョイスするには実に素晴らしいものだ。

「お昼はどうします?この時間帯ですからね。そろそろ混み始めてくるでしょうし、先に映画を見てそのあとにたべることにしますか?少し遅いかもしれませんが」

「そうね。あまり混んでいるのは好きではないし、そうしましょうか」

「決まりですね」

 俺たちの方針は決まった。ならばあとはその方向へと進むだけだ。俺たちは映画館へと向かうため、足を動かした。



「何か見たいものあります」

 映画館に到着し、とりあえず現在上映されているものを眺めながら俺は奏さんに問いかける。

 現在上映されている映画は最近少々話題になっているものから、そんなものを作っていたのかと今初めて知ったような映画まで様々だ。しかし話題になっている=良作というわけでもなく、意外に掘り出し物もあるので注意が必要だ。というか、話題に上がっているものを見るのは少々癪だという感情が俺にはある。もちろん興味がわけば見に行かないわけでもないが、それでも結構稀であったりする。

「そうね……」

 奏さんは悩みながら上映中の作品を眺める。やはりこういうものはどれも面白そうに見えてしまうから悩んでしまうのだろう。その気持ちは結構わかる。

「あっ」

 奏さんは小さく声をあげる。俺が聞き取れるかどうかというほどの小さな声。そして奏さんは指をさし今度は俺にも聞き取れるほどの声を出す。

「これがいいかな」

「ではそれにしましょう」

 ちらりとその作品に目を向けたが、特に気にすることなく奏さんに同意する。別に特別見たいものがあったというわけでもないから俺としては奏さんに合わせてもなんら問題ないからだ。

「いいの?」

「ええ、大丈夫ですよ。それではチケットを買いに来ましょう。ポップコーンとかはいります?」

「このあと昼食だからやめとく」

「わかりました」

 奏さんは俺に対して確認をしてくるが、先ほど言った通り、特に見たいものがあるわけでもないので俺はためらうことなく返事をした。



 俺たちが視聴した映画は『家族愛』がテーマとなっていた。すれ違う親子、そこに起きる悲劇の数々。それでも互いにどこか相手を信じたいという気持ちが見え隠れするそんな作品だ。きっと第三者の視点から見ている俺たちにはその心の気分にもやもやしてしまう。早くお互いが気を付けばいいのにとそう思ってしまう。そして俺はこの気分は今回が初めてではない。こんな状況が、似たような状況が俺の身近で起きていたのだから。

 たまたま奏さんはこの作品を選んだのだろうか?いや、おそらく違うだろう。先ほど偶然にも、本当に偶然だが、奏さんの小さな自然と出た声を聞いた。きっとこの作品に惹かれたから出た声なのだろう。そしてその理由はいうまでもないであろう。

 ―――きっと重ねているのだ、自分たちの状況と

 ―――きっと考えているのだ、自分たちはどうするべきなのかを

 きっとと言葉の前についている通り、ただの俺の想像。本当にたまたま選んだのかもしれない。そうなら俺の考えていることは勘違いでしかない。

 ちらりと俺は奏さんの方に視線を向ける。

 奏さんの表情は複雑に織り混ざっているように思えた。俺が一つ一つなんなのか理解することは難しいだろう。だが、悲しいという気持ちだけは俺はしっかりと受け取れた。その感情だけひときわ際立つのだ。

 こんな表情をしているのに俺の考えが勘違いだとは到底思えなかった。きっと俺の考えは遠からず当たっている。それはひどく自分に都合の良いわかった気でいるような感じがして、自分自身少し嫌になってしまうところもあるが、俺はそう思った。

 そして俺は己の意思で立ち入ったかどうかは置いておいて、奏さんの事情に立ち入った。そんな自分は一体どうするべきなのだろうか?人の家庭の事情を土足で踏み込んでいいものではないのかもしれない。それは一般論でいえばそういう結論に至る。

 だが、俺は首を横に振る。一般論などという、一体誰がその発言の責任を負うのかもわからない言葉に左右されるべきではないからだ。そんな言葉よりも己の言葉。つまり己の信じる考えを持って、己の責任で考えなくてはならない。

 だから俺は俺自身に問う。

 ―――俺は一体彼女のために、そして自分のために一体どうするべきなのだろうか?

 映画の最中俺は俺でその問いに対する自問自答を繰り返していた。



 二時間弱映画を見たことによって時間は過ぎ去り、もうすぐ時刻は14時になろうとしていた。昼食をとるには少し遅い時間だ。そして俺は朝6時に起き、かつ朝はコーヒー一杯ですまし、朝食をとらない主義である俺にとっては昨日の19時以来何も口にしていないため、空腹が襲いかかる。なんでもいいから口に入れろと指令を出してくる。

 だが、俺は美味いもの又は健康に良いものしか口に入れない主義である。なんでもいいから口に入れろという命令は到底受け付けられない。

「そろそろ腹が減りました。どこか行きましょう」

 俺はそう提案すると。奏さんは待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。だが、その意図は俺にはイマイチわからなかった。

「実はこの周辺で美味しいレストランを調べておいたの。そしてこの時間帯はまず間違いなくすんなり入れるわ。営業時間も全く問題なし」

 なんということだ、奏さんは事前にこのデート(俊の主観)のために事前に情報を取集していたというのか。それに対して俺はそんなこともせずただ待ち合わせに遅れないようにきただけという。これではきっと恋愛マスター(笑)とやらにでも笑われて、そんなんだからモテないのだよ。とか言われてしまう。

 どうでもいいが、恋愛マスターとか言っている奴に限ってそういう関係で色々問題を起こしている感じがする(ド偏見)。そう考えると言われてもそうだね、そうだねモテないね〜などと慈悲の心で聞いてやれるな。

「そうですかではそこに行きましょう」

「ええそれじゃあ案内するわ。こっちよ」

 俺はそうして奏さんの後を追いかける。

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