個人的に授業中の内職は正義だと思います
体育を終え、その後体を動かした弊害かそれとも元々つまらない授業のためか眠気が襲いかかって来た。そのために俺は夢の中へと沈み込んでしまった。ちなみに俺は眠気と戦って授業を聞こうなどとは思わない。そんなことをしても頭に入っておらず無駄であり、それなら少しでも仮眠をとってスッキリした方がとても効率的だ。
しかしどうやらこのことに対して異議がある人物もいるようだ。そうそれは今目の前でプンプンと可愛らしく怒っている栂先生が良い例といえる。
「聞いているのですか!授業中に寝ていたら勉強が追いつかなくなりますよ!」
「俺が勉強に追いついていないなら、二学年300人中俺含めて294人は授業についていけていないことになりますね。」
「確かに土師ノ里君は学年トップの成績ですが、サボっていたら下がってしまうのですよ!今まで理解できていなくても、今回の授業が理解できずに困ってしまうことになるのです」
俺の反論に対し、栂先生は再反論してくる。
「安心してください先生。俺はそこらにいるサボリ魔とは違います。しっかり予習もしておれば復習も自身の配分でしっかり行っています。なんなら今日学んだことプラスに今後の授業について今ここで理解していることを証明してもいいのですが?」
「うう〜〜、予習復習をしっかりしていることは良いことですが、今回に限っては納得できないです」
少々涙目になっている先生。少しばかり可愛らしい、生徒間で人気が出るのも頷ける。
「栂先生。あなたは昼間に眠くなることはないでしょうか?」
俺は栂先生に優しく質問をする。
「まぁ、それは眠くなってしまうときもありますよ。でもそんな時でも寝てはいけない時があるのですよ」
「なるほどなるほど。そう栂先生あなたも眠くなってしまうのです。そして眠い時それは生産性ということでいえば実に最悪な状態と言えます。そんな状況で勉強してなんになるというのですか?」
「確かに集中はできていないかもしれませんが、全く勉強しないというよりは断然マシです」
「それはその時という限定した時の話ではないですか?しかし勉強も基本的に長期的に見て結果が出るかどうかで判断すべきです。いいですか?確かに勉強を全くしないで寝ているより、少しでも聞く努力をして授業を聞いたほうが、百のうち一ぐらいはつかめるかもしれませんが、それ以降も眠気があり、結局ほとんど無意味になってしまう。ならば、15分ほど仮眠を思いっきりとったのちに勉強した方がはるかにいいに決まっています。これは現代の科学でもまず僕の意見が支持されますよ。事実俺は15分仮眠を取った後、しっかり勉強していたではないですか」
「勉強といっても一人で勝手に内職していただけですけどね!」
「失礼な!あれは時間を効率よく使った勉強です!」
「だからと言って内職はないでしょう!」
「……え、なんで?」
俺が心底疑問そうな顔見て、栂先生は「こいつマジか……」みたいな顔でこちらを見る。はてそんなにおかしいことを言ったのだろうか俺は?ただ自分の勉強のため効率よく時間を使っただけだぞ?
「そんなことしたら先生たちもやる気なくなっちゃうじゃないですか。きっと寝ている時に担当していた先生もやる気なくなってしまってますよ。だから反省してください!」
栂先生は俺に対して、俺の意見に対して反論してくる。なるほどそれは一理ある。確かにそうかもしれない。だが、申し訳ないが今回はその主張は当てはまらない。
「栂先生。あなたの意見は確かに正当であると思います」
俺が栂先生の意見に賛同するような言葉を述べると、「わかってくれたのですか」といった言葉が浮き出るような表情が出てくる。なんとも感情豊かな人だ。と今回の件とは全く無関係な感想を抱きつつ、俺は「しかし」と逆接の接続詞をつけて話を続ける。
「あまり当事者がいない時にいうのはよろしいことではないですが、今回は俺にも言い分があるので言わせてもらいますが、あの先生はハッキリ言って当初からやる気がないですよ。教科書をただ音読して教科書通りに板書しているだけです。そこになんの意味があるのですか?俺自身当初は、板書以外に、重要な情報があるかもしれないと思って授業を受けていましたが、強いていえば、テスト一ヶ月前ぐらいからどの範囲が出てくるか言っているだけであってそれ以外特に何もないのですよ?もはやノートを取るまでもなくただ教科書を見て、読んで自分で理解して、さっさとその範囲に対する問題を解いて理解が及んでいない場所を確認する方が遥かに勉強になります。栂先生あなたよく生徒を見てくれていますし、授業もしっかりと行なっています。ですからその時に俺が居眠りしていようならそれは過失の度合いで言えば俺が100%悪いです。ですが今回は申し訳ないですが、向こうも鼻からやる気がない以上、こちらがやる気がないなどと言われても納得できないですよ。過失の度合いは同じぐらい、過失相殺ができますよ。ですので一方的に生徒だけに反省しろと言われても俺はフェアじゃない。という反抗心が生まれますよ。この学校の方針も自由と平等なのですから、それは生徒間愚か教師と生徒間にも生じるものでしょう?」
とりあえず俺は長々と栂先生にこちらの言い分を主張すると、みるみる困った顔をする。ついさっきの表情がこうもすぐに変わるのを見るとなかなか面白くもっと見たいが、正直栂先生は善意とかでこちらに対し説教しているわけだし、そもそも栂先生自身には別に何か過失があるわけでもないし、言い分も一理あるのでこれ以上この人を責めるのも可哀想だろう。
「まぁようするにお互い様じゃないですか。というのをいいたいのですよ俺は、これを栂先生に言うのもおかしな話ですので、困らせてしまいすみません」
少々感情的にぶつけてしまった部分があるように思えたのでここは素直に頭を下げておく。栂先生は悪くない。マジすみません!
「まぁ、土師ノ里君の言い分も一理ありますから、先生たちも気をつけますから、これからは寝るときは休憩中にお願いしますね」
「わかりました。眠気が休憩中に来たときはそうするよう努めさせてもらいます!」
元気に俺はそう返事すると満足したのか帰っていいと許されたので俺はサッサと職員室から退出する。その後ろから「眠気が休憩中に来た時ってことは、授業中に眠気が来たら寝るということ?」といっており、こちらが全くもって反省していない可能性が生まれたのか再び呼び止めようとするが、俺はそれよりも早く脱出し、奏さんが待つ教室へと早足で向かうことにした。ちなみに廊下は走っていません。競歩です競歩!
「こんにちは」
高校生らしく元気いっぱいな挨拶をしながら俺は扉をガラガラっと音を立てながら開ける。そこには机が四つ大きな一つの机になるよう並べられ、そこに椅子が二つ置かれていた。そして二つある椅子のうち、一つ窓際に置かれていた椅子に奏さんは座っており、静かに読書をしていたようだ。だが、俺の挨拶で俺が来たことを認識したのか、亜麻色に小さく猫の刺繍が入ったブックカバー付きの本をパタンと閉じ、「こんにちは」と言って微笑む。窓が開いていたせいか、そこにさらに心地よいどこか暖かさが感じられる風が静かに教室に入り込み、奏さんの綺麗な青髪が、少しばかり窓際と反対方向へなびく。その姿に少しばかり目が奪われてしまうが、このまま扉の前で固まっていては不審に思われかねない上、目が奪われていたという事実を知られるのは少しばかり恥ずかしいものであったから俺は、何事もなかったかのように教室に入り、奏さんと目を合わせる。
「今日は遅かったのね?何かあったの?」
「職員室に呼ばれていました」
「何をしたの?」
まだ何も説明もしていないのに、俺のことを疑うような目を向けられる。正直全然怖くはないのだが、俺の評価がもしかしてあまり良くないのではないかという可能性を見て少しばかり落ち込みそうだ。
「いや、そんな目で見られるのは心外ですよ。まだ俺は何もしてないのに」
「それもそうね……ごめんなさい。それでなんで職員室に?」
「授業中寝てたら呼び出されました」
「……」
おかしい、先ほど以上に俺のことを見る目が厳しいものになっている。なぜだ?何がいけなかったのだろうか?……うん俺が悪いですよね。はい。真剣に悩むまでもなく、反射神経で答えが出るほど簡単ですね。
「すみません。調子乗りました。俺が悪かったです。ですからその視線をやめていただけると嬉しいです」
ペコペコと上司に怒られている部下のように俺は頭を下げる。まさか俺がああはなるまいと思っていたような状況を社会が出る前にやる羽目になるとは思わなかった。
「よろしい」
だが、その甲斐もあって、奏さんは機嫌を直してくれたようだ。よかった。よかった。これで機嫌が治らなかったらどうしようかと思ったほどだ。
「そういえば、2限は奏さんも体育でしたね?」
特に理由があるわけではないが、奏さんの顔を見て、今日の体育の光景を思い出し、話を切り出したのだ。だが、この話の切り出しは良くなかっただろう。少なくとも今回は。その証拠に奏さんの顔の表情が少し暗くなる。女性は体育の時間などを含めてあまり異性にジロジロ見られるのが好きではないという理由があるかもしれないが、奏さんの表情は別の理由が起因であるように思えた。そしてそれを俺はなんとなく理解することができた。
「あまり女性のこと見ちゃダメだよ。でもそっか、見られたのか」
少しお姉さんのような表情で俺を注意しながら、そうつぶやく奏さん。
「私ぼっちだったでしょ?」
なんともまぁ反応に困る質問をしてくる。さて俺はどう返すべきだろうか?
俺は少し悩み、この場でぼやかして言うのも違うような気がしてたため、俺ははっきりと答えることに決めた。
「はい」
はっきりと答えたことで、聞いてきた張本人は、少し顔を歪めたが、それは聞いてきたのだから諦めてほしい。
「……はっきりと言われると覚悟してもくるときは来るのね」
「諦めてください」
「まあでもその通り前にも言ったけどあまり学校でうまく人間関係築けてないの」
「奏さんは性格が俺と違ってアレじゃないから、友人なんてすぐできそうですけどね?俺と違って性格はアレじゃないので」
「それ自分で言うんだ……しかも2回」
苦笑いしているが、短い期間とはいえ俺の性格を知りつつあるのだから、そこまで反応することでもないと思う。あの二人ならもはや何も気にすることなく他の話題へ移る。そうまるで「今日いい天気だな」っと返したら、「ああそうだな。そう言えば…」みたいにすぐに話題に切り替えて来る。
……そう考えると俺の扱いって結構雑なんじゃないかと思えてきてならないな。
「ゴホン。さっきも言いましたが、奏さんなら動けばすぐ友人ができると思うのですが」
これは本心である。見た目も整っていて、性格も良し。特段嫌われるような要素もないように思える。
「でもみんな私のことはどう接していいのかわからないような感じなの……」
割とガチ目に凹む奏さん。そんな表情を見ると俺も少しは力になってやりたいようにも思える。だが、原因がわからない。何が原因でそのような態度を取られているのかわからなければ対策ができない。
「なんでそんな感じに?」
「う〜ん」
奏さんは少し悩みながら、なんとなく原因となるのではないかという事柄をあげていく。
「多分だけど、私が誘いとか軒並み断っていたからかも。1〜2年生の時はその時間が、なくてあまり遊びに行けなかったの。さらにその当時はバイトしていたから余計に遊びに行けなくて、次第に誘われなくなったという経緯があるの」
「あ〜」
確かに誘いを常に断り続けたら向こうも誘わなくなるに決まっている。俺なんかは初めから誘われない可能性もあるし、誘われても一度でも断ったら二度と誘われる可能性はなくなる。なんなら誘いに乗って行ったらそこに誰もいなかったということも経験済みだ。あらやだ思い出しただけで悲しい!
俺の話は置いておいて、何度も断り続けたら誘いが来なくなるのはそれは言ってしまえば当たり前の話である。見込みのない人を誘っても無駄だからだ。見込みがなくとも誘う人間がいたとすれば大半はナンパ目的だろう。
そして誘いを断り続けると、あまり人付き合いが良くないという評価になる。それで評価が下がる恐れもあるが、下がらずともお硬いイメージがついてしまって学校内でも距離を取られてしまう。そうなると自らの意思でどうにかそのイメージを取り払わないと決して取れないものだ。イメージとはそういうものだ。
それに奏さん自身どうも一歩引いた距離に自ら立っているように思える。そのことがさらにこの状況にさせているのだろう。
「やっぱりこれかな?」
「そうでしょうね。ですが、それなら焦る必要はないかもしれないです。まだイベントごととかありますし、少しずつコミュニケーションとって行けばいいと思いますよ」
「それもそうね。それにさっきはああ言ったけど今は俊君もいるしね」
可愛らしくウインクをしながら俺の名前を呼ぶ姿は、綺麗だというより可愛らしく、少し悪戯心が入ったお姉さんのようだ。今まで見たことないような顔であったから、不覚にもまた心臓の鼓動が早くなってしまう。本日二度目だ。
「ええ、そうですよ。奏さんのような人にそう言ってもらえて俺も光栄ですよ」
「……もしかして照れてる?」
ニマリと意地悪い顔をしながらこちらを下から覗き込んでくる。俺は思わず一歩下がったが、それに合わせるかのように奏さんは一歩こちらに近づく。距離をとらせないぞという意思が込められているように思えた。
だが、正直勘弁してほしい。俺の身長は178㎝、奏さんはどうやら170㎝のようだ。いきなり身長の話をしてなんだと思うかもしれないが、今この状況、奏さんが下から覗き込んでこちらを見ている状況。そして奏さんと俺の身長差は8㎝。
つまりめちゃくちゃ顔が近い。そしてなんかいい香りがする。潤から借りて読んでいた青春ラブコメのような感想が湧き上がってくるのだ。
おかげで先ほどの心臓の鼓動のペースがまだまだ序の口だと言わんばかりに早まってきているし、顔が大変よろしく無くなりそうだ。
だが俺は、奏さんの前ではクールで紳士な良い後輩である。(尚客観的に見てそのように思われているかは些か疑問が残るが、俺はそんなことは気にしていない)
こんなところで醜態を晒すわけにはいかない!
俺は実にクールに紳士な対応を早急に考え実行すべく、思考を巡らす。
「奏さん顔が近いですよ。あなたのような綺麗な人が男にそうやすやすと近づいてはいけませんよ」
常日頃から綺麗に磨いてきた白い歯を光らせながら実にスマートに肩を掴みそっと引き離す。実にイケメンだ。これには奏さんも赤面だ。
「……急にどうしたの。本当に私何かした?」
だが俺の予想に反して、奏さん表情はどこか怯えたもので、そして俺の身を案じているような表情だ。とても青空が広がり以前と心地よい風が吹き込み、暖かな太陽の光が部屋を照らしてくれている状況でしていい顔ではない。それは何かその人に死が迫ってきているようなシリアスな展開にするべき顔であって。間違っても今していい顔ではない。こんな状況でそんな顔をされるのは、ギャグ漫画に己の境遇または守るべきものが窮地に落ちて、葛藤し、己の心をじわりじわりとスリへしていく主人公が紛れ込むようなほどの違和感だ。
「……えっと」
俺はこの反応にどう答えるのが正解なのだろうか?まだまだ若輩者である自分には到底その答えを見つけられる自信がない。
「だって俊君がそんな態度取るなんて、想像できないから。もしかして何か気に触るようなこと言ってしまったのかなって……もしそうならごめんなさい」
本当に申し訳なさそうな感じで頭を下げる。人と関わりながら生きていく以上、謝るという行為ができるのは実に良いことである。それ自体は俺も賛成である。だがそれはあくまで自分自身に非があり、謝る必要がある時のみに限定されるものだ。何でもかんでも謝るというとその謝るという価値が下がることになる。今回は謝ること自体の価値を下げてしまったかというとそういうわけではない。だが、今回の謝罪で俺の心が静かに傷つけられたということだ。
俺があのような態度を取ったらそんなにおかしいのか!という叫びが心で轟いている。つい人に謝らせてしまうほど酷いのか!と心で叫ばずにいられなくなっているのだ。
改めて奏さんの顔を見る。ふむ、やはりその顔は自分が何かしでかしてしまったのではないかという疑惑にかられ、申し訳なさそうな表情だ。そこには俺に対する悪意なんてものはない。むしろ善意100%なのではないかとすら思えてくる。
「別に何か奏さんがやったとかそういうことではないですよ」
とりあえず俺は誤解を解くべく弁明する。
「本当に?あんなトチ狂ったような言葉並べるから静かに怒らせたのかと思ったのだけど……」
「……」
……なるほどこれが善意の暴力というやつなのだろうか。かなりくるものがある。時に善意というものは悪意より恐ろしいと言われ、そういったものを取り扱った小説を数はあまり多くはないが、一冊は読んだことがありその存在自体は認知したが、やはり経験で知るのとは大きく違うな。だってそれを経験して、己自身のリアルな感情などが一気にドンと押し寄せてくるのだから。なるほど某マンガに出てくる自分が一番だと言いたげなほどの自尊心とそこから出てくる口の悪さを持った若き天才漫画家がリアリティは大切だといったが、確かにそうかもしれない。リアルで経験するのと小説ではやはり血がいうということか……
いやしかし全く悪げもなく俺のクール(笑)で紳士な対応をトチ狂ったと表現されるとは恐れ入ったぜ。今のはなかなかにいいパンチだった。これが急所に当たっていたら1ラウンドKOも十分にあり得るパンチだった。てかちょっと泣きそうだった。マジでぴえんだぜ。ちなみにこれってもう古いのかな?誰か教えてくれません?いまをときめくJKの皆さんオネシャス。
さてくだらないことを考えながら静かにえぐられた傷口の修復を待ち、ようやく落ち着きを取り戻した俺は再び奏さんの目をみる。
「ただちょっとふざけただけですよ。そんなに反応されると傷つきますよ」
いや参ったな〜っといったまるでおちゃらけたキャラのようにハハハと笑い飛ばす。その中に若干悲しみが混じってしまっているが、それは許してくれ。
「なんだ。そうだったのてっきり……」
ホッと胸をなでおろし安心したようだ。
「マジで奏さんの中の俺の評価はどうなっているんですか?」
割と本気で気になってしまうので、俺はジッと奏さんを見つめる。決して黙秘権の行使は認めない意思を持って。憲法38条の保障はどうした?知らんなそんなもの。あと憲法は私人間同士でも適用されるが直接適用はされないからな。教養として知っといて損はないぞ!
さて俺の問いかけに対して奏さんはどう対応するか観察すると、奏さんの視線はスーッと横に逸れていく。それは誰が見ても分かるほどである。俺の問いかけに対する間、その視線が口以上に雄弁に語ってくれている。
……つまりそういうことなのだろう。俺泣きますよ?
「いや、その、違うの」
奏さんは俺の表情を察したのか弁明しようと試みるが、正直遅いです。
「大丈夫です。俺のメンタルは某ゲームのメタル系スライムの中でも王に分類されるレベルですこれぐらいのことどうってことありません」
罪悪感を少しでも拭うべく俺は奏さんに気にすることはないと伝えるが、やはり人間。そう言われて、ハイそうですかとはならない。奏さんはまだ弁明を試みようとする。だが、友人が少ないことの弊害か、この時の対処は一切経験していないような感じがする。だが、逆にこの慌てふためく様子で俺の傷はすっかり癒えたようだ。
「ははは」
自然と笑い声が出てしまった。そう自然に。決してアメリカンな「ハッハッハッハー☆」みたいな思わず殴ってやろうかと思うようなわざとらしい笑い声ではないぞ。仲むつまじい男女が自然に漏れる笑い声だから間違えないように。
その自然な笑い声が、奏さんにも移ったのか、奏さんも笑い出す。
少しの間その空間には笑い声だけが響いた。それだけでとても楽しい空間へと早変わり、笑いとはすごい力が持っているという証拠だ。
「そのゴメンね。お詫びに休日にどこか遊びに行かない?何か奢るわ」
奏さんは謝罪とともに、そう提案する。
「ええ、そうしましょうか」
今度は良い謝罪である。俺がそう評価するのもおかしいかもしれないが。だから俺はその謝罪をしっかりと受け入れ、その提案に乗ることにしたのだ。
というか奏さんと遊びに行けるのだから受けないわけがない。ぜひ行かせてもらいます!
一人で静かにテンションが上がっていると、奏さんは「あっ!」と何か気がついたような声を出す。
「そういえば私たちって連絡交換してなかったよね?」
奏さんにそう聞かれて、俺も確かにと思う。お互い結構会っているのだから交換してもおかしくないが、不思議とそういう会話がなかった。おそらく二人ともあまり連絡のやり取りをするようなことがなかったのが原因だろう。俺もあの二人といえども用がない限り送らない。週に一回あるかないかの頻度だしな。
「では交換しますか」
そう言って俺と奏さんはスマホを取り出す。もちろん交換するのは電話番号でもメールでもなく、ラインである。そう日本ではだいぶ普及したメッセンジャーアプリである。ちなみにこの企業の時価総額は1・3兆円。みんな大好き某ハンバーガーチェーン店の日本法人の二倍あるんだぜ!成長したよね!
早速アプリを開いて俺はQRコードを表示して、奏さんに読み取る用スマホを差し出す。あまり使いこなしていなかったせいで少々もたついていたが、機械音痴でなければそう困ることはないほどには簡単なので、特に問題なくお互い「友達」に追加された。やったぜ!これで友達10人突破だぜ!ちなみに今までは家族3名、潤と蒼太の2名、公式垢4という割合です。公式垢は友達に含まれないだろwwwという風に草生やすのは禁止な。
「じゃあこれで具体的なことはまたおいおい決めていきましょう。そろそろいい時間ですしね」
ちらりと教室についていた時計を確認するともうじき時刻は18時になろうとしていた。まだ外は明るいとはいえ、特に用はない人間はとっくに帰る時間だ。
「そうね」
お互い特に帰る支度をする必要もないからさっさとバッグを持ち、外へと出る。最近慣れてきたがなかなかいいものです。はい。
「それじゃあまた明日」
お互い帰り道は反対のため、校門前で別れることになる。だから俺も奏さんに「はいまた明日」と告げる。それに対して奏さんは少しだけ頭を下げて歩いていく。俺はそれを少しばかり眺めることにした。夕日に、ありふれた学校の建物、そして住宅街そして所々生えている木々を背景とし、歩いていくその姿はなんとも綺麗だ。
これで目が奪われるのは本日3度目だ。
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