偶然の遭遇の対応は人によって異なるよね!

 特に何か用事がるかと言われると特にないが、俺は日曜日に大型ショッピングセンターへと足を運んだ。

 一階フロアには、スーパーなどの食品が目につき、二、三階は服が多く売られている。本日の料理担当は俊ではないため、スーパーなど食品には用もなく、服はあまり興味がないのでそこに向かうことはない。

 俺が向かうのは本屋である。特に欲しい本があったわけではないが、何か面白いものはないかブラブラするのは案外楽しいものである。

「さあ、何か面白いものはあるかな」

 まず向かうのはライトノベルコーナー、やはり俺世代は純文学よりもこちらの方が馴染みが深い。そして次漫画、一般文学、ビジネス本、そして雑誌系で見て回る。因みに推理系よりもヒューマンドラマを好み、雑誌系は料理、アニメ、あたりを見て回る。

 ライトノベルコーナーに行くとまず目に入るのは今月の新刊である。ここは必ず目を通す、なぜならここには俺がまだ知らぬお宝があるかもしれないからだ。

 だが、どうやら今月は俺の好みのものはなさそうであった。残念である。では漫画はどうであろう?確か今月は俺が全巻買っているシリーズの新刊が出ているはずである。

 ウキウキした気分で俺はすぐに漫画の新刊コーナーへ足を運ぶが、どうやら俺の求めている漫画は人気の成果売り切れていたようだ。

 これには俺もガックリ。先ほどのウキウキした気分を返してもらいたくなる。

「あれ、土師ノ里君?君も本を買いにきたの?」

 後ろから女性の、しかも透き通った綺麗な声が聞こえる。この声の主が誰なのか俺は瞬時に理解できた。

「御陵先輩奇遇ですね」

 沈んだ表情自然と消え去り、先ほど以上のウキウキした気分で俺は御陵先輩に挨拶をする。これには俺のことをよく知っている友人がビックリするほどの対応である。なんせ知り合いと会っても俺は基本スルーであるからである。なんなら蒼太たちにもその対応をする時があるからである。

「何を探してたの?」

「特に探していたものはないのですが、強いていえば今月に俺がよく読んでいたシリーズの漫画の新刊が出てたのですが、残念ながら売り切れてしまっていたんですよ」

「それは残念ね。楽しみにしてた物が手に入らないと結構悔しいものね。因みに何の漫画を探してたの」

「女子高生が、キャンプをする光景を見て癒される漫画です」

「あっ、知ってる。というか持ってる」

「マジですか!」

 ハッキリと告げたが正直御陵先輩が読んでるとは思わなかったので、つい声を上げてしまう。俺もアウトドアが結構好きな蒼太から進められなかったら知らなかったものだ。実際に読んでみると大変素晴らしいものではある。

「私も漫画結構読むし、漫画を読むときはほのぼのとしたものが好きだからね。そういうのは結構しているよ」

 なるほどこういった分野も御陵先輩はいけるということか、これは俺的にかなりプラスポイントである。

「それならうちに新刊があるわよ。前たまたま見つけたから買ったの。よかったら貸してあげようか?」

「ありがとうございます」

「ついでだし、どこかでお茶しない?」

 先ほどは新刊がなくて少々気分が沈んでしまったが、まさか御陵先輩に借りられるとは、それに御陵先輩からお茶を誘われるとは、怪我の功名という言葉は、なるほど先人もこういった経験から生まれた言葉なのかと理解できた。

「えぇ、行きましょう是非」

 元気よく俺は返事をし、御陵先輩の後をついて行く。

 そして到着したのはなんとも女性が好みそうなカフェであった。メニューもデザートやスイーツが多く、その中にはヘルシーで健康的などといったうたい文句のメニューまであった。

 実に女性狙いのものが多いカフェだ。そのカフェに2人は入り、店員に案内された席に腰を下ろした。

 ちょうど人が少なくなる時間帯だったのだろうか、あまり客は見えない。それが俺にとっては過ごしやすくてありがたかった。

 俺たちは早速何か注文するためにメニュー表を手に取る。

「こういうヘルシーだの、健康的であるだの言っているのを見ると本当に健康なのかって言いたくなりますよね。果物をそのままとるのと、ジュースにしてとるのとでは結果が異なるとも言いますからどうも信用できないですよね」

「そ、そうなの?」

 俺にとっては特に意味もない雑談のつもりだが、どうやら御陵先輩にとってはそうではないようだ。俺の言葉に驚きと悲しみの感情を見てとれた。

「……一応そういう報告もあるそうです。まぁそれが確実に正しいとは僕は専門家じゃないので言えないですけど。まぁ、好きで飲む分にはいいんじゃないですか?」

「そ、そうね。好きで飲む分にはいいに決まってるわ……」

 どうやら目の前にいる女性は、健康などを気にして少なくとも意識的にこのような類を取り入れていたのだろう。

「もしかして、結構意識的に飲んでました?」

「……まぁそれなりに。といっても味が好きだからという理由が大きいけど」

 少し頰赤らめながらそう白状する御陵先輩。しかしその言葉は何処が言い訳がましい、だがそれが何処か微笑ましかった。

「そうですか。まぁ結構美味いですものね」

「えぇ、そうね!野菜や果物の甘さなどが見事に味に現れているからとても美味しいからつい飲んでしまうの」

 結構必死に捲したてるのを軽くいなしながら微笑むが、どうやら向こうはそれがお気に召さないようだ。

「その自分はわかってます、という表情やめたほうがいいわよ」

「無理ですね」

 はっきりと断ると、御陵先輩はたいそう不服な表情でこちらを非難する視線を向けるが、この程度そよ風にも等しい俺にとっては全くもって効かない。

「土師ノ里君、君って時折凄まじく意地悪よね。というか性格悪い」

「御陵先輩、気づいたのですか。ただ俺はどちらかというと性根腐っている、または根性がひん曲がっているという表現の方が正しいと自分では思いますが」

「どちらにせよ自分で言うことではないわよ」

 呆れた表情を見せながらそう呟く御陵先輩はたまたま近くを通った店員に声をかける。もちろん注文するためだ。

「このランチAセットを……」

「二つお願いします」

 御陵先輩の視線の意図を理解した上で、俺は店員に伝える。

「かしこまりました」

 店員は愛想よく、嫌味のない気持ちのいいトーンで注文を受け取り、その場を去っていく。きっとこの店のアルバイトの中でも丁寧な働きをする人なのだろうとなんとなく思う、俺には少なくとも無理である。

 ちなみにライトノベルまたは二次創作でよくあるカップル割引などを手に入れるべく、お互い赤面しながら恥ずかしい行為をするなどといった美味しいシーンはない。

 そのことが少々残念であることは内緒だ。

 他愛もない会話を楽しみながらランチが届くのを待つ。しかしその時間が心地よい。正直邪な気持ちが多少なりともあったが、今はこの心地よい空間を純粋に楽しみたい気持ちが勝る。

 ―――たまにはこんなひと時を楽しむのもまたいいものだ。

 素直にそう思わせてくれた。

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