土師ノ里兄弟はとても似ている

 今日は土曜日であり、学校はない。そのためその前日から夜更かしして中には徹夜したために、力尽きる人間が一定数現れる曜日である。

 しかし俺の朝は変わることなく早い。いつも通り朝の6時に目を覚まし、サッと布団を整える。それだけで、とてつもなくいい気分になれる。ゆえに俺は必ずベットをきれいに整える。机が本で汚くなろうともベットは必ず綺麗にするのだ。

「さて、水を飲むか」

 そう言って一階にあるリビングへと向かう。そこはすでに明かりがつけられていた。誰かが旬より早く、目覚めているようだ。それが誰であるかは多いに予想できる。

「おはようさん。舞」

「おはよ〜、お兄ちゃん」

 俊の挨拶に、間が伸びた挨拶をするのは、土師ノ里舞はじのさとまい。俺の妹であり、現在中学二年生の14歳である。ちなみに身長は162㎝と女子にしては高く、どうやら土師ノ里は背が高い人間が多いようだ。

 舞は、机に用意してあった口に赤いリボンを咥え、後ろ髪を束ね始める。どうやら髪を結ぼうとしていたようだ。

「よし、いい感じ」

 どうやら上手いこと整えられたのか、上機嫌でそうつぶやく。

「どこか出かけるのか?」

 俊は舞にそう尋ねる。

「今日はどこも出かけないよ。ただ一応、赤いリボンは私のトレードマークとして推していることだし?家にいてもつけとこかな〜って」

「ああ、お前いつもそれつけているもんな……」

 そう呟きながら、決して安物でなかった赤いリボンを大量に手に取っていたことを思い出していた。

「それじゃあ今日は家でダラダラと過ごすということか?」

「そうだね。今日は一日中家に引きこもりたい衝動が抑えられないしね〜」

「あぁ、わかるわ。なんだかんだ家って最強だよな」

「だよね〜。というわけで私は朝ごはんを食べたら、めんどくさい課題とテストも一ヶ月もしたらあるからちょろっと勉強するね」

「俺もそのつもりだ。」

 そう言って二人は、軽く朝ごはんをすませたのちに、勉強道具を用意し、リビングで仲良く二人で勉強を始める。

「しかし妹よ。お前も真理に気づいたか」

 誇らしげに俊は舞に言う。

「ふふふ、お兄ちゃん私も気づいたのだよ。長時間ダラダラとしながらも、其れ相応の成果を手に入れるにはこう言ったものは早くに片付けるべきであると言うことを!」

 土師ノ里兄妹において、最近できたルールというものがある。それは面倒な課題等は朝に全て終わらせてしまおうというものだ。このルール自体破ったところで罰則などはないが、二人はしっかりと守っている。なぜか?

 それは朝というのは最も生産性の高い時間帯であり、この時間に終わらせるということはすなわちその後の自由時間が増えるということである。これが二人にとって魅力なのだ。

 俺たち二人とも基本的にあまり真面目な性格でないと思っている。はっきり言って宿題を必ずこなさないといけないとも思っていない。ただ毎回忘れると目をつけられるため、宿題が簡単な場合は必ずやり、難しい場合でもあまり面倒ではないのならしっかりこなし、程度を見て、しっかりとサボるというのが二人のやり方(というより俊が編み出したやり方)である。もちろん授業中内職することもよくやる。

 つまりこの二人はいかにして楽にうまいこと学校の課題および授業をやり過ごそうと考えている人種であり、それは怠惰な性格がゆえに生まれた考えだ。

 そしてその怠惰な性格に合理的思考力がプラスされることでこのような考えが生まれてきたのだ。朝の方が作業はスムーズに終わるならば、朝にこなす方が合理的であると考えるのは二人にとっては自然なことだ。

「さすがは俺の妹だな」

 ニヤリと笑っていると―――

「あんたらこんな朝っぱらからうるさいよ!」

 どうやら我らの母が俺たちの声によって目覚めたようだ。

「あっ!お母さんおはよう!」

「母さん、おはよ」

 元気に手を振りながら挨拶をする舞、俺は先ほどよりは多少テンションが下がり気味の声で挨拶をする。その二人の挨拶に応えるように母もまた「おはよう」と返す。

「それで二人は何をやっているのさ?」

「「勉強だけど」」

 母は二人をにらみながらそう問いかけるが、二人とも現在行っていることに対しては責められる筋合いはまるでないため悪びれることも怯えることもなく堂々と応える。

「……まぁ、それならいいけど。もう少し静かにね。もう少し寝かせて」

 そう言って母は寝室に姿を消して言った。

「さてこれ以上うるさくすると今度はマジで怒られるかもしれないからここからは黙ってやるとしよう」

「了解」

 俺たちはそれぞれ取り組むべき課題に集中して取り組み始める。そこから数時間二人の会話はほとんどなかった。もともと集中するために朝に課題を取り組むのだからこれは自然の流れであった。



「ときにいいかい?親愛なる我が妹よ」

「なんですかな?お兄様」

 朝6時過ぎから始まった課題を終え、テスト勉強もそれなりに済ませた二人はもうこれ以降何もするつもりはないため、二人してゲームを始めた。ちなみに二人がやっているのはとあるロボットに乗り6対6で対戦するゲームである。汎用、支援、強襲に分かれて戦うため、それなり考えて動かなければならない。ゲーム機が抽選でたまたま二台手に入れたため、二人してこのゲームを結構の頻度でやっているのだ。

 そして、そのゲームをやっている最中、俺は舞に話しかけた。

「俺の家って結構親いないよな?」

「何を今更?お母さんもお父さんも働いているから当然じゃない?」

「いやまぁ、そうなんだけどな?お前それで寂しかったということはないか?」

「急にどうしたの?」

 不思議そうな表情でこちらを見つめる舞。それはそうだろ、今まで気にすることもなかった話題に急に意識を向け、それを会話で取り上げたのだ。不思議に思うだろう。かく言う俺も御陵先輩のことで初めて意識したぐらいだ。

「ちょっとな……」

「ふ〜ん」

 俺の曖昧な返事に気にすることもなく、舞は自分の過去を思い出しているようだ。

「寂しいっていえば寂しいことをもあったけど、お兄ちゃんがずっといたからね。こうして昔から遊んでたし、ついでにすぐに友達とも遊ぶようになったしね。まぁ家事を分担してやるのはめんどくさいけどそれぐらいだね。どっちかと言うとお兄ちゃんの方が寂しかったんじゃないの?友達私より少ないし、なんなら一時期マジでぼっちだったし」

「馬鹿を言うんじゃない。一人なら一人でやることはたくさんあるからな。それにぼっちであることに誇りさえ感じている俺にそれは当てはまらん」

 胸を張って俺はそう反論するが、舞は気にすることなく続ける。

「まぁ、一人は気楽で楽しいのは同意するけど、やっぱずっと一人はきついじゃん。友達とずっと一緒というのもしんどいけどそれと同じようにずっと一人はしんどいよ」

「……」

 そう言いながら、どういった表情を浮かべれば正解なのか舞にはわからなかったのか、それとも自身の感情を理解できていないのか、なんとも言えない表情を浮かべる。

 そして俺はふと天井を見上げていた。なぜ天井を見上げたのか、それは過去を思い出したためについ見上げてしまったのだ。

 思い出すのは、俺が中学2年生、舞が小学6年生つまりだいたい3年ほど前のことだろうか、丁度それより少し前ぐらいから両親とも仕事が忙しくなり、家にいることが少なくなってきた時期であった。それゆえ俺が家の家事を担当することになった。

 両親が忙しくなった以上、長男が家事をやることは自然なことであり不満はないから俺はすぐに引き受けた。何より俺はその当時友達はほぼ皆無、別にいじめられていたというわけでもないが、友達は少なかった。そして舞は友達と遊ぶことが多くなり、結果家に一人でいることが増えた。

 別にそれに対して不満があったわけではない。その当時からどちらかというと一人でいる方が好きなたちでもあり、苦ではなかった。

 しかしその生活が続くうちに、月に何度かふと、俺以外誰もいない家を見渡すことがあった。なぜそれをしたくなるのか自分自身でもわからなかった。しかし当時俺はそれをついやってしまうことがあった。

 とはいえ、休日になれば親も舞も家にいることも多く、仲良く家族で過ごすことも多かく、そのことも踏まえてあまり苦でなかったと言えるのだろう。

 それでもやはり時折ああいったことをやってしまう事は、妹が中学に上がり共に家事を担当するまではあった。

 今思い返すと、一人でいることに寂しさを感じていたのかもしれないな……

 3年経った今、舞にそう言われて改めて過去の自分を客観的に見ることによって当時の自分自身の感情に気づけた。そして今現在進行形で同じような体験をしているであろう、御陵先輩についても俺は前よりも理解できるようになった。

 そのことが俺にとって嬉しいものであった。御陵先輩の気持ちを少しだがしれたということが嬉しかったのだ。

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