第3話

 銃弾は古賀の目の前まで向かった——。




 が——。




「ざ〜んね〜んで〜した〜!」


 彼は大声でそう言い放ち、銃弾を避けた。


 古賀はわかっていたのだ。


 敵は目の前にいるスロウスだけではなく、もう一人いると。


 これで正確に場所がわかった。


 いや〜、目の前にいる男だけだと思ったら、もう一人が隠れて撃つんだもん。


 ずっと大声を出しててよかった。


 大声が波になって、彼らを通り抜け、その波と違う波があれば、敵が居るっていう戦法よ。


 波はいろんなことで発生する。


 拳銃のトリガーをひく動作、移動する風、呼吸。


 この感じは……女か。


「そこにいるんだろ! このアマぁぁぁ!!」


 古賀は左の方向に拳を上から下へ振った。


 揺れる空間が勢いよく何もない場所に向かっていく。


 もし何も知らない人ならば相手は一体どこに攻撃しているのだと考えるだろう。


 しかし、スロウスは大声で「ラスト!」と叫ぶ。


「ッ!?」


 ラストは何もない空間から現れ、手をクロスにして攻撃を防ぐが、そのまま飛ばされ壁に強く打ち付けられた。


 スロウスは歯を食いしばり、心の中で『やられたっ!』と思うことしかできなかった。


「当たった当たった! ふーはははははは——」


 ショッピングモールに轟くのは忌々しい笑い声。


 スロウスの視界に入るのは、まだ戦えるという意思を体で表現するように立ち上がるラストの姿。


 それでも忌々いまいましい笑い声が聞こえる。


 わずらわしい。何笑ってんだ? こいつ?


 スロウスは死んだ魚のような目で古賀を睨む。


「どうした? 俺の力に怖気付いたか?」


「ラスト、いけるか?」


「えぇ、まだ戦えるわ」


 彼女はそう答え、急に現れた弾が放たれた。


「変な能力だな! でもその程度の攻撃! 何も怖くないわぁ!!」


 古賀は空間を殴るその瞬間、二本の剣が同時に真上から落ちてくる。


「だから! わかるんだよ! お前らの攻撃はよ!」


 空間を数発殴り、攻撃は全てはじかれる。


 それと同時に二本の剣が橙色に発光し、光線が発射され、ラストの銃弾が三発撃たれる。


 しかし、あっさりと避けられる。


「全部の動きがわかってる……厄介やっかいだな」


 スロウスは『どうしたものか……真の能力を発動するか?』と考えた時、古賀の背後が陽炎かげろうのように揺れ始める。


 古賀は背後に違和感を覚えた。


 なんだ? この感じは?


 そう思う彼の後ろで、静かに揺れる空間からフードを被った人影が口角吊り上げ、その姿を現した。


 人?


 古賀が振り返ると、黒と紫を基調としたフードを被る見知らぬ者が立っていた。


「なんだおめぇは!!」


 そう叫びながら拳を振り上げる。


 その刹那、男は膝から崩れ落ち、男に視線を向けると腹部に大きな穴が開いていた。


 倒れた体は一瞬にして全身がガラスになり、そのまま砕ける。


 フードを被る者は見下げながら「つまんねぇな」と声を出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る