第4話

フードを被る者がするど眼光がんこうでスロウスを見る。


男はニヤリと笑顔を浮かべ、フードを外しあごを高く上げた。


「おいおい、少しばかり俺らが遠出とうでしてる間にぃ、随分弱くなったじゃねぇか? なぁ、スロウス」


男の切れ長の目にスロウスの姿を映す。


スロウスもニヤリと笑う。


「ばーか、面倒臭かっただけだ。プライド」


「ハッ! それにしては押されてたように見えたけどなぁ。ていうか確実に押されてたよなぁ? そう思わねぇか? ラース」


そう言うと彼の背後が陽炎かげろうのように揺れ始める。


「油断は禁物だぞ」


そこから現れたのは黒いレザージャケットを身にまとい、炎のような赤いペイントをしているヘルメットを被った男だった。


「俺を心配してくれてるのかぁ? うれしいねぇ、惚れちまいそうだぁ。ハグでもするか?」


目を細めながら、両手を広げ、からかうように答えるプライド。


それに対しラースはため息を吐き「からかうなよ」と低い声で答える。


「おー、こわいこわい。怒らせたくないねぇ——にしてもだ……」


そう言いプライドは明後日の方向を見渡す。


スロウスも見渡すと、そこにいるのは野次馬やじうまと化した人たちであった。


「恐ろしい、やはり能力者は血も涙もない」


「化物同士の戦いを街でするなよ」


「やっぱり化物だな。どっか行ってくれよ気持ち悪い」


気分を害する不協和音がスロウス達の周りで歌い出す。


その光景を見て、プライドは周りをにらみ「何見てんだよ——つまんねぇな、てめぇら!」と叫ぶ。


その怒号どごうは彼らを見ている者たちを震え上がらせた。


襲われる。


暴れられる。


怖い。


先ほどの戦いのように彼らは自分たちを襲うかもしれない。


静かになるショッピングモール。


聞こえるのは瓦礫がれきが落ちる音。


「落ちつけプライド」


静寂せいじゃくの中でプライドの肩をつかなだめるラース。


恐怖の対象として周りから見られているこの状況。


「はぁ、面倒臭い」


スロウスの口から出たのはこの言葉だけだった。


「男子三人、ここから出ましょ。ランジェリー買えそうにもないし……」


スロウス、ラース、プライドは一斉にラストに振り向く。


「そうだな……拠点に戻ろう」


スロウスがそう言うとプライドは髪をかきあげる。


「はいはい、分かりましたよ!」と言った後で、「つまんねぇな……」と呟く。


何もない空間を陽炎のように揺れる。


プライドとラースが陽炎へと入り、スロウスとラストが追うように行こうとした瞬間、ラストが立ち止まる。


「ッ?」


ラストはショッピングモールを振り返り、周りを見渡す。


「どうした?」


「ううん! なんでもない!」


彼女はそう言い、スロウスの腕を組み、一緒に陽炎の中へ入っていった。


その姿をショッピングモールの三階の渡り廊下で見下げる一人の男。


「あーあ、やられっちゃったかぁ——まぁいっか、期待してなかったし」


そう言い男は振り向く。


「君は……弱くないよね?」


不気味に頬を上げ、男は笑った。

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