第14話 信長、港町を作る
旧オーウェル伯国の南部は海に面している。
その中で最大の港はアータム。といっても、漁港に毛が生えた程度のものという印象だった。在地の商人の力も弱い。
俺はそこにオールランド侯国の商人を呼んで、都市の改造を行うことにした。オールランド侯国の商人達も海に面した土地には関心を持っていたようで、ちょうどよかった。
商人には様々な権益を与えつつ、港湾整備のために金を出させた。
このアータムがいまいち発展しなかった理由は海が荒れると、高波が押し寄せ、さらに風で船が流されるせいだ。
はっきり言ってさほど条件のいい港ではない。
西隣のイシャール侯国などは良港がいくつもあるのだが、あの国は湾が入り組んでいるので、風除けの場所が豊富なのだ。
仕方がないので、切り出した石を海に積んで、寄港地として使い物になるようにする。石は領内から産出するので、モノはある。
人もアータムに集めないといけないので、商業振興策もアータムに発布した。
発布したのは、下記のようなものである。
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第一条
アータムに移住する商人は、国内のほかの土地で負っていた借金を免除する。
第二条
町での押し売り・押し買いはすべて禁止する。違反が役人へ届け出るように。
第三条
ギルドに所属していない者でも、いかなる品物も販売してよい。
第四条
商売にかかる税は、アータム独自の税率とする。また、我が国に貢献した商人に対して、個別に優遇することもあるので奉公に励むようにせよ。
第五条
これまでアータムに住んでいなかった者が、アータムに居住する場合、半年の間、住宅税を免除する。
第六条
これらの命令はアータムの発展のためのものであるから、発展に不都合があると判断した場合は、変更や追加もある。ただ、住人と商人を裏切るようなことはしない。
以上。
オールランド侯兼オーウェル伯 ハーヴァー・オーウェル
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いわゆる楽市楽座令というものの一種だが、これぐらいはどこの為政者でもやるだろう。
大事なのはこのアータムを発展させようという意志である。そこが一貫していれば、問題が起きても、適宜修正を加えて、対応していける。
第一条から第四条は商人を集めるための施策だ。借金まみれの商人でも再度やり直せるチャンスをやったわけだ。
人口が増えて都市になると、無理矢理売りつける「押し売り」や、逆に安い値段で強引に購入する「押し買い」が必ず発生するからこれを禁止した。
第三条はギルド所属の商人だけに商売をさせたのでは町が発展するのに効率が悪いので、誰でもよいとした。
もっとも、ギルドのほうが多額の献金をしてきたりしたら、それはそれで、その時考える。別に恒久的にギルドをないがしろにするつもりはない。
第四条も基本的に軽減税率を適用するというもの。
大商人に関しては、港湾設備の建設に密接に結びついているから、それぞれ個別に対応する。
第五条だけ毛並みが違うが、これはアータムの人口自体を増やしたいからだ。
オールランド侯国では戦争が長引いたし、それで住む場所がなくなった者や、対アメリア派だったため、叔父が滅亡したあと、土地を失った者もいるだろう。
そういう連中がアータムに住んでもらえると、ちょうどいい。
あとはアータムからオーウェル伯国の中心地であるオーウェルまでの道路整備を行う。
すべて石で舗装できれば最高なのだが、そこまでの贅沢は言わない。
曲がっている道をまっすぐに直し、細い箇所を拡張して、幹線道路のようにするだけでも、使い勝手は全然違うだろう。
起点と終点に馬の駅を置いて、馬に乗って移動できるようにもした。
アメリアに「あなたは新しく町を作るのが上手ですね」とやけに褒められた。
オーウェル伯国を滅ぼしてから、アメリアと二人で過ごす時間が増えている。
新妻と二人きりでいたいというのもあるが、政策など二人で決めるのが一番効率がいいというのもある。
「アータムという町ですが、記録を見る限り、オーウェル侯国を併合してから、わずか三か月の間に明らかに人口が増えています。こういう商業振興策がこんなに短時間で効果を発揮することはなかなかないでしょう」
「織田信長は支配領域が急拡大しただろ。だから、新しく町を作る必要に迫られることも何度もあったんだ。岐阜なんて街道からすら外れてたからな」
岐阜城のふもとが寂れていたのでは格好もつかないから、絶対に岐阜を通るようにとか、そんな決まりまで作った。
それに関しては我ながら実効性に疑問もあるけどな……。
「こういう町作りで大事なのは、その町にあった方法をそれぞれ考えることだ。まったく同じ町はないし、町ごとに抱えてる課題も違う。だから、法令も状況次第で変更していけばいい」
「そういえば、アータムの町に出した法令にもそんなことが最後にわざわざ書いていましたね」
「あれはな、俺が掲げてる理想を住人にも理解してもらうためだ。住人の信頼を集めていれば、大きく失敗することはない。それと、経験則だけど、そうしたほうが圧倒的に失敗は少ない」
俺の織田信長としてのカリスマの数値、たしか極端に高くなっていたよなということを思い出す。
おそらく、前世の俺もカリスマが異常に高かったのだろう。
俺がやったことは別に斬新なことじゃない。
大半のことは前例があったし、十分に考えられるようなことばかりだった。
ただ、違うとしたら規模がはるかに大きかった。
経済力も軍事力も何もかも、規模がそれまでの想像を超えるものになれば、それは規格外の途方もないものに映る。
それに人をついてこさせるための技術において、織田信長は優れていたのだと思う。
「それで、アメリアのほうの仕事はどうなんだ?」
アメリアは軍制改革をするとか意気込んで、いろいろと素案を作っていた。
「まだ未完成なところもありますが、だいぶできてきましたよ。あなたに負けてはいられませんから」
実は軍制は織田信長の時に、面倒で後回しにしてたところだった。
当時から、ほかの大名のここが優れているとか言ってくる者もいたが、こう言って黙らせてしまったところがある。
――こちらの軍より弱い軍を真似してどうする?
こう俺に返されると、みんな黙ってしまう。
正直、大人気なかったことは認めよう。他国の軍隊でも効率的な方法をとっているところがあったのは事実だ。取り入れてみてはという提案もわかる。
取り入れなかった理由は俺の軍隊が軍事的に大規模になりすぎて、数で圧倒できるものになってしまったからだ。
効率が少し悪かろうと、勝ってしまうのだ。
「実は朝倉もちょうど軍制改革をやりだしていたんです。ちゃんと完成する前に滅んでしまったのですが」
「いちいち俺の目を見るな」
「あなたから、ほかの大名がやっていたことを聞いたことで、完成へと近づけることができました。今からお話ししましょう」
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