第50話「店選び」

「他に行ってみたいところある?」


 と礼音は聞く。


「お肉! スイーツ!」


 エヴァは左手を小さくあげつつ即答する。


「だったな」


 礼音は笑ってスマホを確認した。


「公園のそばにあるレストランは完全予約制みたいだから、どこか肉を食べられる店を探そうか」


「賛成!」


 彼の提案にエヴァはふたたび即答する。


「鳥がいるのね! きれい」


 彼女は空を見上げながら言う。


「そうか」


 礼音はあいまいに相槌を打つ。

 彼にとって珍しいものじゃない。


 だが、エヴァにとって珍しくて喜ぶものなら、きっとそれは宝物だ。


「動物園に行ってみる? 今日は無理でも、いつかタイミングを見て」


 と礼音は思いつきで聞く。


「いいわね! 日本の動物園、行ってみたいわ!」


 とたんにエヴァはサファイアのような瞳を輝かす。


「そうか、今度行こうな」


 と礼音は言う。

 大げさに喜んでくれると、話しているだけで楽しい気持ちになってくる。


 エヴァはそのような不思議なパワーを持っていた。


「ええ、約束よ」


 ふたりは噴水を背景に微笑で約束をかわす。

 そして一度公園を抜け出して、飲食店があるエリアに足を運ぶ。


「肉とスイーツの両方を食べられるお店ってあるの?」


 とエヴァが興味深そうに聞く。


「あると思うよ。ファミレス……わかる?」

 

 礼音は言いかけたところで質問を出す。

 ファミレスがわからなければ、説明が必要になるからだ。


「レストランとはどう違うの?」


 とエヴァは首をかしげる。


「うーん、レストランは高い。ファミレスは家族連れの安い店、みたいな感じかな?」


 礼音は悩みながら言葉をひねり出す。

 レストランは高いと彼が知ったのはつい最近のことだった。


「ああ、値段や客層で別れているのね」


 とエヴァは納得する。


「ファミレスなら肉もパフェもあると思うんだけど」


 礼音は言って彼女の反応を待つ。

 彼女が富裕層だけに断る展開も大いにあるなと思いながら。


「いいわね! 行ってみたいわ」


 ところが彼女は即座に快諾する。


「いいのか? もうすこし高い店も探せばあると思うけど」


「お肉もスイーツも出てくる店に興味があるわ! 日本ならきれいで治安もいいでしょうし」


 礼音の念押しにエヴァは笑顔で答えた。


「まあ、この辺は治安大丈夫だと思うよ」

 

 と礼音は言う。

 千代田区がお高い土地だと彼は知っている。


(だからファミレスと言っても俺が知っているチェーン店よりは高いかも?)

 

 なんて考えながら礼音が歩いていると、サイゼラスという店の看板を発見した。

 イタリア系の料理を出す、良心的な値段で美味しいと評判のチェーン店だ。


「サイゼラスはどうだ? イタリア料理系の店なんだが、ステーキやハンバーグはあるはずだよ」


 と礼音が言う。


「いいわね! 食べてみたい!」


 エヴァは即答する。


「アメリカ人だしピザなら食べたことあるのかな」


 アメリカ人はピザ、ハンバーガー、コーラという自分のイメージをレオンは言った。


「ないわよ? ハンバーガーならあるけど」


 とエヴァは微笑みながら否定する。

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