第49話「ふたりはこれから」
「大花壇もすばらしかったわね。きれいだし、いい匂いだし!」
とエヴァが楽しそうに感想を語る。
彼らはいま公園に設置されたベンチに座り、ひと休みしていた。
飲み物は売店で買ったお茶である。
「日本のティーは美味しいわね! 紅茶も好きだけど」
とエヴァは緑茶を美味しそうに味わう。
「個人的には紅茶のほうが好きなんだけど……」
礼音は小声で言う。
彼女を見ていると、もうすこし日本製のものを好きだと思えるほうがいいのかと感じてしまう。
おそらく考えすぎなのだが。
「いいんじゃない?」
エヴァは気にしていないようだった。
「ミツケもよかったわ。何百年も前の遺構がのこされてるって素敵ね!」
と彼女は興奮を思い出したようにしゃべる。
「うん、たぶんあれ江戸城のやつだな」
礼音は自信がないながらに話す。
「あんまり考えたことがなかったからなぁ。案内できなくてごめんよ」
と彼は詫びる。
「余裕がなかったのだから、仕方ないじゃない?」
エヴァは彼の事情を理解し優しくフォローしてくれた。
「ワタシだってアメリカのことあまり詳しくないし、知らないことたくさんあるわよ」
そして彼女は自分のことに触れる。
「そうだろうな」
とてもそれどころじゃなかっただろうと礼音も思う。
「これからなのよ! ワタシたちは」
とエヴァは力強く話す。
「そうだな」
彼女の明るさ、前向きさは礼音の心にすっと入ってきた上によくなじむ。
「エヴァはすごいね。明るく前を見て、楽しそうで。周囲に力を与えられる女の子なんだな」
と礼音は感心する。
(物語のヒロインみたいだよな)
思ったことはさすがに照れが大きく上回って、口には出せなかった。
「あの子メチャクチャ可愛い」
「芸能人?」
「天使みたい」
通りすぎたカップルがエヴァを見ながらひそひそと話す。
(またか)
と礼音は思う。
公園を歩いていたとき、そしていま休んでいるとき、人の視線は必ずと言っていいほどエヴァに向けられたのだ。
100人中99人くらいが目を奪われる天使のような美少女。
あと数年もすれば美の女神なんて表現がつけ足されるかもしれない。
なんて考えが礼音の脳内で生まれたほどだ。
「エヴァがすごいのは女性も目を奪われて、称賛するところなんだよな」
と彼は小声でつぶやく。
正直、男が彼女の美貌に注目するのはよくわかる。
すごいのは女も男と同じ結果になるし、何ならカップルそろってという例もすくなくない。
(彼氏が他の女に見とれても怒らないどころか、一緒になって見とれるとかやばいんじゃないか?)
なんて思えて仕方がないのだ。
「そう?」
とエヴァは珍しくそっけない。
彼女は礼音に褒められると喜ぶが、それ以外の人間から称賛の視線を集めていることに興味がないようだ。
あるいは慣れていて気にしてないのかもしれない。
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