第48話「新鮮で楽しい」
「近くに都立公園があるらしいんで、まずはそこに行ってみないか?」
と礼音が提案すると、
「いいわね! ぜひ行ってみたいわ」
エヴァは喜んで賛成する。
外に出るとぬくもりをふくんだおだやかな風がふたりを撫でた。
「都会のにおいがするわね、トーキョーは」
と言ってエヴァはまぶしそうに目を細める。
「都会の匂い?」
礼音はピンと来ず首をひねった。
「ええ。人の匂い、建物の匂い、乗り物の匂い。それらが混ざった感じ」
と彼女は語る。
表情から察するに別にいやがってるわけじゃないらしい。
「そうなんだ。考えたことなかった」
と礼音は感嘆する。
「あ、ごめんなさい」
エヴァは益体ものないことを言ってしまったと詫びた。
「いや、いいんだよ」
礼音は笑って気にしていないと示す。
「本当?」
と聞くエヴァのサファイアのような瞳は、すこし不安が残っている。
「うん。自分が知らないことを教わるのは新鮮で楽しいからね」
礼音は答えて微笑む。
これはウソじゃなくて本心だ。
彼は思わぬ発想を否定するタイプじゃない。
「そうなの。レオン、とても素敵な考えね」
とエヴァはホッとすると同時に、彼の考えに感銘を受ける。
「そうかな?」
と礼音は首をひねった。
「俺は自分が大したことないと思ってるから、他人をなるべく尊重したいんだよ」
自嘲気味に話すと、エヴァは微笑む。
「相手を否定せずに尊重する。それがとても素敵ですばらしいことなのよ」
と彼女は力強く話す。
「……ありがとう」
どう答えていいのか礼音はわからなくなったので、褒められた返礼を言う。
「そうやって人を褒められるエヴァも素敵な女性だと思うよ」
ついでお返しとばかりに彼女のことも褒める。
「ありがとう」
エヴァはうっすらと頬を朱色に染めて恥じらう。
とても魅力的なのに反応がウブなので、礼音はドキドキがさらに加速する。
お互いの言葉で照れ合う、つき合いたてのカップルのような空気が生まれた。
しかもそれとなく察した近くの人々が微笑ましく見守っていることに、彼らは気づいていない。
「あの子きれいだね」
「モデルかな?」
とエヴァに見とれて称賛している声も、彼らは意識していなかった。
「あら、見事な噴水ね」
公園に入ったところでエヴァが楽しそうな声をあげる。
大きな噴水が近くの人に水しぶきをまき散らすような勢いで水を放っていた。
「そうだな。観光スポットになってる理由がわかるよ」
と礼音は言いながら周囲に目をやる。
彼ら以外にも何組もの人たちが足を止め、噴水を見物していた。
「素敵ね。水しぶきが太陽を浴びてきらきら宝石みたいに輝いていて!」
とエヴァがはしゃぐ。
「本当にそうだな」
と礼音は同意する。
(きみのほうが綺麗だよって言うところか……いや、恥ずかしいな)
彼は脳内でそのように考え、自重してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます