第47話「楽しんでおいて」
午前十時、礼音は動きやすい服装をして部屋の外に出て、エヴァと合流する。
今日のエヴァはピンクのブラウスにジーンズ、スニーカーにブランド物のバッグというやはり動きやすさを考慮したファッションだ。
そして手にした白い可愛らしい帽子がお嬢様感を与えるアクセントになっている。
「どうかしら?」
エヴァはその場で一回転して、礼音にファッションを見せた。
「とても可愛くて似合ってるよ。プリティーなのか、キュートなのか、俺の知識じゃ困るけど」
と礼音は率直に感想を言う。
「どちらでもうれしいわ」
エヴァはとても満足して微笑む。
彼に褒められるのが何よりもうれしそうだ。
「ならよかった」
女の子は褒めろというのは、礼音も小耳にはさんだことくらいある。
実践できているかどうかは、エヴァに聞かないとわからないのだ。
「とりあえずあなたの部屋は確保しておいた。泊まるも泊まらないもあなたの好きにすればいいよ」
そこでリチャードが彼に話しかけてくる。
「ありがとうございます」
もう驚けなくなってきたなと思いながら、礼音は老人に礼を言う。
「これで安心しておでかけできるわね!」
とエヴァが言って彼の腕をとった。
きれいな女の子に腕をとられるのは、何度経験しても礼音はどきどきする。
そしてバラのような香りが彼の鼻に届く。
(香水かな? いい匂いだな)
香水までオシャレだなと礼音は感心する。
「香水いいな」
と彼は褒めた。
「そう?」
エヴァはすこし驚いたようにサファイアのような瞳を丸くする。
「うん。きみに合ってて素敵だと思う」
と礼音は褒めた。
内心緊張していたし、恥ずかしくもあったし、さらには態度に出ないように必死でもあった。
「褒めてもらえると思わなかったわ……すごくうれしい」
その甲斐はあったらしく、エヴァは白い頬を真っ赤に染め、目をうるませる。
感極まったような表情だった。
(香水を褒めただけで??)
女心は難しいなと礼音は正直なことを思う。
もちろんエヴァ限定の可能性は捨てなかったが。
「そうか。香水って触れていいんだな」
「もちろんよ!」
と礼音の言葉をエヴァは全力で肯定する。
あなたのためにつけたのだから、と彼女は言えなかった。
そして彼は気づけない。
(……時間がかかるのは仕方がないだろう)
唯一、しっかり把握しているリチャードは長く目で見守るつもりでいるので、言及しなかった。
「では行ってきます」
と礼音とエヴァはリチャードにあいさつする。
「ああ。楽しんでおいで」
リチャードはおだやかな笑顔でふたりを見送った。
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