第46話「朝の歓談」

 夕食のあと部屋の前で別れ、礼音は服と靴をぬいで心身とも軽くなった。


「ふーっ」


 それから風呂に入ってゆっくり寝て、朝ご飯をまたリチャード、エヴァと三人で食べる。


「相談なんだが」


 とリチャードが切り出す。


「何でしょう?」

 

 次はどんな発現が飛び出すのか、びっくり箱を開けるような気持ちで礼音は聞いた。

 

「ビルの用意がととのうまで、何泊かするのはどうだろう? そのほうがエヴァも喜ぶんだ」


「ふたりがいいなら」


 リチャードの提案を彼はすぐ受け入れる。

 まだ想定しやすい内容だったからだというのが大きい。


「やったわ!」


 エヴァは手を叩いて喜びをあらわにする。

 

「そんなに喜んでもらえるなら、俺もうれしいよ」


 と礼音は話す。

 笑顔がぎこちなくなったのは仕方ないと自分で思う。


 ときどき大げさなリアクションのように感じるのだが、外国人だから文化が違うのだろうと納得している。


「とてもうれしいわよ!」


 とエヴァはもう一度言った。


「うん」


 何だかおかしくなってしまい、礼音は吹き出す。

 つられてエヴァも吹き出してふたりでけらけらと笑い声を立てる。


「どこに出かけたいとかある?」


 と礼音は聞く。

 誰かと出かけた経験など皆無の彼は、エヴァの意見を参考にしたかった。


「ふたりで公園に行ったり、街を歩くだけでも楽しいわよ? 肩の力をぬいて! ワタシが言うことじゃないかもだけど」

 

 とエヴァは話す。

 リチャードはそうだろうなという表情になる。


(ああ、この子が好みそうなことを先回りしていたのかな)


 と礼音は推測した。

 エヴァは腹芸が得意そうじゃないので、示し合わせていたという線はうすいだろう。


 示し合わせていたとしても、彼に対する気づかいだと考えられる。


「エヴァがいいなら、街をぶらぶら歩いてみるか?」


「喜んで!」


 礼音の最終確認に、エヴァは即答した。

  

(いいのか……)


 と礼音は考える。

 エヴァに甘えてしまおうかと思う。


 見栄をはってもおそらくいい結果にはならないからだ。

 

「エヴァが喜んでくれるならいいか」


 と礼音は決まる。

 エヴァと出かけるのだから、彼女が喜んでくれるのを優先でいいだろう。


 リチャードは安心したようにうなずく。


「この辺で行くところわかんないから、マジでぶらぶらするしかなさそうだ」


 と礼音はひとりごとを言う。

 幸い皇国ホテルの周辺にはいろんなスポットもあるようだ。


 エヴァとふたりで楽しむ分なら期待してもいいだろう。

 

(たしかこの辺は治安もいいはずだから)


 女の子と一緒なら治安も大事だ。


「エヴァは食べたいものとかある?」


 と礼音は聞く。


「お肉! あとスイーツ」


 エヴァは即答する。

 

「直接的だな」


 礼音は笑うが、わかりやすくてありがたいと思う。


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