第41話「気楽にやれば」

 食事は十八時三〇分からということで、リチャードとエヴァ一度引き上げた。

 礼音はリビングに腰を下ろし、スマホで動画を見る。


 服も靴も慣れていなくて落ち着かないのだが、着替えるのは面倒だった。

 予定の時間になってスマホのアラームが鳴ったので、彼は部屋の外に出る。


「レオン!」


 彼の姿に気づいたエヴァがうれしそうに名前を呼ぶ。

 くるぶしが見える程度の濃緑のワンピースドレスに白いパンプスをはいている。


 オシャレなストールを肩に羽織っていて、身につけた真珠のネックレスも見事だ。

 髪をサイドアップにしているのも華やかさにひと役買っている。


 エヴァは微笑んだまま、何かを期待するようにじっと彼を見上げた。


「……とってもきれいだよ」


 礼音は照れるのに耐えながら、シンプルに褒める。

 まったくお世辞を言う必要がないのが美少女という存在だ。


 エヴァならどんなアイドルやモデルの横に並んでも、見劣りしないだろう。

 

「ありがとう。レオンも似合っていて素敵よ」


 正解だったらしくエヴァは魅力的に笑いながら、褒め言葉を返す。


「そうかな。ありがとう」


 どんな服でも着こなしてしまいそうなエヴァとは違う。

 礼音はそう自覚しているが、彼女の厚意は受け止めるべきだ。


「やあ」


 とリチャードがおだやかに声をかけてくる。

 彼の服は礼音のものと大差がない。


 ただ経験の差か、しっかり服を従えている印象だ。


「俺だけなんか違う気がするんですが」


 と礼音はリチャードに相談する。


「慣れと自信の差だろう」


 老人は即答した。


「服を着る経験を増やしていけば、自然とできるようになる」


「そういうものですか」


 リチャードがあまりにも自信たっぷりなので、礼音は疑わず聞き入れる。


「ふふ、そろそろエスコートしていただけないかしら?」


 とエヴァは彼を見上げながら甘い声でおねだりしてきた。


「エスコート初心者でよければ」


 と礼音が切り返すと、


「気にしないわ。大事なのは楽しく一緒に過ごすことですもの」


 とエヴァは応える。

 

「私たち三人しかいないのだから、練習のつもりで気楽にやればいいさ。いくらでも失敗できるチャンスだよ」


 リチャードは彼らの後ろに位置しながら優しく言う。


「それでいいんですか?」


 と礼音は思わず聞く。


 まるでふたりを練習台につき合わせるようなものじゃないか、という意識が強くあったからだ。


「平気よ。レオンのためだもの。いくらでもお付き合いするわ!」


 とエヴァは元気に答える。


「じゃあ……やってみる」


 ふたりがこれほど言うのだからと、礼音はひとまず肩の力を抜く。

 

(失敗していいって言われると、心が軽くなるな)

 

 と思いながら。

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