第42話「リチャードの趣味」

「中華料理は好きかい?」


 とリチャードに聞かれたので礼音はうなずき、


「中華って言ってもラーメンとか点心くらいしか知らないんですが」


 正直に打ち明ける。

 彼ら祖父と孫娘に見栄をはってもうまくいくはずがない。


「なら今日はワクワクするんじゃない? ワタシも詳しくないんだもの」


 とエヴァは言葉どおりワクワクした表情で話す。


「そっか」


 と礼音は答える。

 彼女はいままで病気で療養していたのだ。


 中華料理を楽しむ生活とは無縁だっただろう。


「そんな顔をしないで」


 と礼音の表情を見たエヴァが微笑む。


「ワタシの大切な時間はあなたがもう取り戻してくれたわ」


「うん」


 と彼はうなずく。

 無限にもひとしい信頼、感謝の念を受け止める。


 三人はエレベーターで移動し、中華料理のレストランへ入った。

 

「何かすごい雰囲気だな」


 と礼音はつぶやく。

 格調高いという表現が彼の頭にも浮かぶ。

 

「すぐに慣れるさ」


 とリチャードは優しく言う。

 チャイナ服を着た女性スタッフが三人を出迎え、案内してくれる。


「今日の料理はどんなものなの?」


 とエヴァが祖父に聞く。

 

「コース料理だよ。念のため辛さはひかえめと伝えてある」


 リチャードがおどけて言うと、


「それは素敵ね」


 エヴァは安心して微笑む。

 礼音も実はほっと胸をなでおろす。


 中華料理によっては辛いものがある、くらいは彼も聞いたことがある。


「レオンは?」


 とエヴァが聞いてきたので、


「からいものは得意じゃないからありがたい」


 と答えてリチャードに感謝をあらわす。


「よかった。確認してみたら、あとでからくすることは可能だったのでね」


 とリチャードは説明して微笑む。


「へー、それはありがたいですね。みんなからさの好みがバラバラだったりする場合とか」


 と礼音が言うと、


「お店はその点を想定してるのかもしれないわね!」


 とエヴァが答える。


「たぶんね」


 とリチャードは言う。

 そのあと雑談に入り、リチャードが


「レオンは投資には興味はないかな?」


 と聞いてくる。


「投資ですか?」


 脈絡がなさそうな質問に礼音はきょとんとした。


「ああ。あなたの資産を投資で運用して、増やすのはどうかなと思っていてね。タイミングを見計らうといつまでも言い出せない気がしたので、いま言ったんだよ」


 とリチャードは言いながらグラスの水を飲む。


「興味はありますが、何しろ知識がないものですから」


 と礼音は答える。

 彼にしてみれば遠回しに断ったつもりだった。


 知識がないので怖いのは事実だが、100億円もあればあとはのんびり暮らすことができる。


 わざわざリスクを冒す理由が彼にはなかった。


「平気じゃない? おじい様、趣味の投資で150億ドルほど稼いだはずだから、おじい様に頼れば」


 エヴァがやはり水を飲みながらさらりととんでもない発言をする。


「趣味の投資? 150億ドル?」


 礼音は思わず反すうした。

 趣味で1兆5000億円ほど稼いだという意味に聞こえたからだ。


「まあね。好きが昂じた結果だから、あまり威張れることじゃないんだが」


 と話すリチャードはすこしも得意そうじゃなく、それだけに信ぴょう性が高い。

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