第34話「大事なのは結果です」

「【ヌーカ】ってすごい希少で入手が難しい薬なのよ! 二年くらい募集してたけど、持ち帰れたのはレオンひとりだけなんだもの!」


 とエヴァが話す。


「そうだったんだ」


 礼音は驚きすぎて、かえって感情の動きがゆるやかだった。


「二年も待たされてあきらめかけていたところにあなたが現れたんだ。本当にあなたは我々の恩人なのだよ」


 と話すリチャードの目じりには、うっすらと涙が浮かんでいる。


「本当にね」


 エヴァが珍しくしんみりした表情になった。


(アメリカ人らしく明るく陽気に受け入れていたと思っていたが……)


 とんでもない思い違いだったと礼音は悟る。


「役に立ててよかったよ。正直、まだ実感がいまいちなんだが」


 と彼は言う。

 

「それは仕方ないかもしれないね」


「べつにいいのよ! そのままのあなたでいて!」


 リチャードとエヴァは笑顔で答える。


 もっとはっきり自分が助けたという意識のほうが好まれるのかと礼音は考えたが、そのへんは気にしないらしい。


「ところで単なる質問なのだが、あなたはプレジャーシステムで1位を目指すという意思はあるのかな?」


 とリチャードがまっすぐ見つめてくる。

 

「ないですね」


 礼音はきっぱり否定した。


「そうなの? 欲がないのね」


 エヴァが驚いた顔をする。


「いや、だってさ……」


 礼音は一瞬言おうか迷う。


 だが、一緒にミカヅキオフィスで仕事をして、これからも【アルカン】に行くならいずれ知られることだ。


「俺はのんびり暮らすのが一番の目標だからな。スローライフって通じる?」


 と彼は言う。


「Slow livingのことかな? ゆったりと生きたいというのは何となく伝わってくるよ」


 とリチャードが答える。


「ですか。【ヌーカ】のことで高く評価してもらえてるのはうれしいですが、たまたま素材を持ち帰れた結果なんですよ」


 どうせいつかばれるなら、いま自分から話してしまえと礼音はしゃべった。


「それでワタシ助かったんだから、あなたは恩人でしょう? 何にも間違いじゃないわ!」


 エヴァは笑顔で言いきる。


「そうだな。あなたとエヴァと、どちらも運がよかった結果かもしれない。だが、結果こそ大事なんだよ」


 リチャードもまた彼女と同じ考えを示す。


「そうですか」


 礼音はふたりが気にしないなら、気にしても仕方ないかと思う。

 すこしずつだが、ふたりのアメリカ人たちの影響を受けはじめている。

 

「あなたが世界1位を目指さないというのは、残念だがすこし安心する。まだエヴァには無茶をしてほしくないからね」


「しないわよ、おじい様」


 心配そうなリチャードにエヴァは微笑む。

 しかし、祖父はすこしも安心していなかった。


「おまえの無茶をしないはアテにならない。そういう意味でもレオンに監視をお願いしたいほどだよ」


 と彼は言う。


(おいおい。エヴァって実は聞き分けのない性格なのか?)


 礼音は内心すこし汗をかく。


 明るく無邪気で素直なアメリカ人美少女という印象しかなかったのだが、どうやらそれだけじゃないらしい。


「もう、レオンの前で変なことを言わないで!」


 エヴァはむーっと頬をふくらませて祖父に抗議する。

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