第21話「調べさせてもらった」

 渋谷支部に顔を出して金貨10枚を1000万円に換えてもらう。


「順調だな」


 と礼音は自分のアパートに戻って思う。


 毎日働いているように見えるが、実際のところは【アルカン】にピクニックに行っているようなものだ。


 フリーター時代のつらさや身を削られるような感覚とは無縁だし、楽しみすらある。


「……何か美味いもんでも食いに行くか」


 いまの彼には金銭的な余裕があるのだ。

 気分的にファミレスに行く。


「ハンバーグセット、フライドポテト、サラダ、それからデザートにパフェを」


 思い切って注文しても会計が怖くないのがいい、と礼音は思う。

 最初に来たのはキャベツ、ミニトマト、キュウリの生鮮サラダだ。

 

 これに付属のドレッシングをかけて食べてる間に、あつあつのフライドポテトが届く。


「美味い。これこれ」


 やっぱりフライドポテトは塩をかけて、あつあつを食べるのが一番だと礼音は実感する。


「フライドポテトはなぜ美味いんだろう? 美味いから美味いんだな」


 なんてひとりで言ってひとりで結論を出す。

 続いてきたのはハンバーグ、スープ、ライスのセットだ。


 スープやライスもいいが、目玉はハンバーグだ。

 たっぷり150グラムあるし、肉汁もあふれる。


「うまうま」


 思わずひとりごとが漏れるが気にしない。


「はー、腹いっぱい食ったー」


 と腹をなでながら彼は満足し、食後のコーヒーを飲む。

 食べたいものを腹いっぱい食べる。


 これ以上のぜいたくを彼は思いつけない。


「……メシは日本のほうが【アルカン】より美味い気がするんだよな。俺が日本メシに慣れてるだけか?」


 と礼音は首をひねる。

 もちろんひとりで考えたところで答えが出るはずもない。


 スマホから通知音が届いたので見てみると、リチャードからだった。


『エヴァが明日会いたいと言っているがかまわないだろうか?』


『大丈夫です』


 礼音は即座にメッセージを返信する。

 予感はあったので彼は今日帰ってきたのだ。


(さすがに明日だとは思わなかったけどな)


 と苦笑する。


 会いたい会いたいと言われてもいやじゃない。

 エヴァの純粋な好意を無意識に察しているからだろう。


 鈍感で恋愛経験がない礼音は、エヴァの好意の種類まで気づいていない。

 病気を治療してくれた医者への感謝の親せきだと思っている。




 次の日の昼、礼音はリチャードから指定された病院の前に行くと、赤いブラウスにジーンズという服装のエヴァに出迎えられた。


「レオン!」


 彼女がうれしそうに抱き着いてくる。


「やあ」


 と答えて彼は彼女を抱きとめた。


「すっかり健康になったんだね、エヴァ」


「レオンのおかげよ!」


 エヴァは離れて最高の笑顔を彼に向ける。


「……よかった」


 健康になった結果、アメリカ産のボディだとはっきりわかるようになっていた。

 礼音は何とか表情に出さず、紳士的な態度を維持する。


「たびたびすまないね、レオン」


 とリチャードが次に彼に声をかけ、ふたりは握手をした。


「さっそくだが、あなたのことは簡単に調べさせてもらった。いまはフリーで法人を設立したそうだね」


「……ええ」


 礼音は驚いたが、調べることは可能なのだろうと割り切る。


「詳しいことは食事をしながら話したいんだが、かまわないかな?」


 とリチャードは聞く。


「もちろんです」


 病院の前で立ち話するのは何となく避けたいのは礼音も同じだ。

 彼が同意すると、


「では車に乗ってくれ」


 とリチャードに言われて黒塗りの高級外車が彼らの前にとまる。


「ワタシ、レオンの隣がいいわ、おじい様!」


「もちろんだよ」


 エヴァの要望に、リチャードはおだやかな笑顔で答えた。

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