第20話「お手柄」
さらに礼音は木をふり回す練習をして、いくつかの素材を拾ってから都市リーメの交易ギルドに帰還する。
シュオがいたので彼に素材を提出すると、
「サーベルフォックスじゃないか。こいつが出るシーズンが来たか」
モンスターの死骸を見て、顔をしかめた。
「サーベルフォックス? 何かやっかいなモンスターなんですか?」
いわゆる害獣ってやつだろうかと礼音は思いながら聞く。
「こいつ自体は違うんだが、こいつを狙って大型の肉食モンスターがやってくるんだ。そうすると都市の安全もおびやかされることになる」
シュオは苦い顔をして言った。
「それは……大変ですね」
適切な言葉を見つけられず、礼音は他人事のような発言をしてしまう。
「早期発見になったので、住民に注意喚起できるし、戦力の手配も早めにできる。お手柄だよ、レオン殿」
シュオは一転して笑顔で礼音を褒める。
「お役に立てて何よりです」
礼音はホッとして答えた。
「サーベルフォックス一頭の買い取り価格は金貨5枚だが、早期発見報酬として金貨10枚が別途支払われる。これは都市での取り決めでね」
とシュオは説明する。
「どうも」
取り決めにならもらおうと礼音は素直に受け取った。
(金貨15枚……1500万円の稼ぎか)
ピクニック半分と考えればかなりボロイ商売と言える。
はっきり言って仕事をクビになっても困らない。
それどころかクビになってよかったと言えそうだ。
「何ならもうすこし調査してくれないか? もちろん報酬ははずませてもらうよ」
とシュオから依頼が出される。
「すみません、今日のところはこれで引き上げたいと思います」
礼音は断りを入れた。
いつもなら引き受けてもいいのだが、エヴァの様子が気になっている。
驚異的なペースで快復しているので、近いうち【アルカン】に行けると言われるかもしれない。
(定期的に様子を見てチェックしておいたほうがよさそうだ)
と彼は思うのだ。
獰猛な肉食モンスターがこの都市に集まってくるなら、エヴァは来ないほうがいい。
もちろんほかの都市に行けるなら別だが、情報の共有はしておきたいのだ。
それに彼はいま生活に困ってるわけじゃない。
何もしなくても生涯安泰と言える稼ぎはすでに手にした。
気が進まないことをやろうとは思わない。
「そうか、無理を言ってすまなかったな」
とシュオはあっさりと引き下がり、彼に謝る。
「いえ、こちらこそ役に立てず申し訳ないです」
と礼音も謝っておいた。
彼が交易ギルドの外を出ていくと、さっそく情報共有ができるようにシュオは手配をする。
「本当にサーベルフォックスが出たんですか?」
とひとりの職員が懐疑的な顔をして、シュオに聞いた。
「持ち込んだのは【宝蛇殺し】殿だぞ」
「!? 至急あちらこちらに連絡しないといけませんね」
持ってきたのが礼音だと知らされた職員たちは、全員が真剣な顔になる。
「疑う者には持ってきたのが【宝蛇殺し】殿だと伝えろ。そうすれば協力的になるだろう」
とシュオが命令を出す。
本人が知らないところで礼音はすでにそれだけの信頼を、都市リーメや近郊の人々から得ているのだった。
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