第14話「【ヌーカ】の依頼主」
数日後、天ケ瀬から電話で指定された時間のすこし前に、礼音は異世界事務局渋谷支部に到着する。
中には黒い服を着た体格のいい外国人が六名と、彼らに守られるように立つ老人がひとり立っていた。
「あ、いらっしゃいましたか」
天ケ瀬は彼に気づくと笑顔を見せたあと、早口の英語で老人に話しかける。
老人は英語で応じたあと、礼音に向きなおった。
「君が持ってきてくれたのか! ありがとう!」
ややぎこちないがしっかりした日本語だった。
「いえ、どういたしまして」
礼音が返事をすると、老人は彼の両手をとってかたく握手をする。
「報酬は2億ドルだ! ささやかなものだが、私の感謝の気持ちだよ!」
と老人は話す。
「2億ドル」
日本円換算だといくらだったかと礼音は反射的に計算する。
そこへ天ケ瀬が早口の英語で何かを話す。
「おっと、そうだ。まだ名乗ってなかったな! 私はリチャード・ベジョツという。孫娘の病気を治すのに必要らしいんだ!」
とベジョツ老人は名乗って事情を明かす。
「レオン・ミカヅキといいます」
順序がメチャクチャだなと思いながら、礼音も自己紹介する。
「レオンか! ありがとう! これできっと孫娘は治るだろう!」
とリチャードはもう一度礼を言って立ち去る。
(もし治らなかったら俺が悪者になるんじゃないか?)
礼音は思わず不安になってしまった。
外国人たちがいなくなると、一気に建物の中が広くなったように感じる。
「2億ドルって日本円だと200億ですか?」
礼音は天ケ瀬に聞く。
「そうなりますね」
彼女は知っていたのか驚かず肯定する。
「英語しゃべれるんですね。すごいです」
「仕事なので」
天ケ瀬は端的に答えた。
「仲介していただきありがとうございます」
彼女と事務局に礼を言うと、
「異世界事務局も仲介料で10億稼げたことになりますから」
天ケ瀬は微笑みながら返事する。
「そうなるんでしたね」
礼音の取り分は190億円になるが、じゅうぶんすぎるだろう。
「【ヌーカ】を使った結果がわかるまで、俺はここにいたほうがいいんでしょうか?」
と彼は相談する。
「リチャードさんは資産家ですから、数日くらい滞在期間がのびても気になさらないと思いますが」
天ケ瀬は推測を述べた。
「まあ報酬に200億円出せる人ですしね」
いくら孫娘の治療費だからと言って、巨額の費用を出せる人はかぎられているだろう。
「とは言えあんまり遠出するのも悪いので、日帰りくらいにしますか」
と礼音は言う。
「三日月さんは稼いでいらっしゃるので、国内観光などされてはいかがでしょうか?」
天ケ瀬はすこし考えて答える。
「ああ、それもそうですね」
彼はその発想がなかったとうなずく。
(貧乏時代しか知らなかったから、金の使い方がわかんないんだよな)
だから彼は【アルカン】に行こうと思っていたのだ。
国内で何かをする、金を使うというのは今後ひとつの選択肢としてありだろう。
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