第13話「【懸賞クエスト】と仲介システム」

 異世界事務局の渋谷支部に礼音は顔を出し、受付に声をかける。


「あのう、【懸賞クエスト】にあった品を持ってきたのですが」


「はい。天ケ瀬が承ります」


 彼に対応したのはウェーブがかかった茶髪の美女だった。


「【ヌーカ】という薬なのですが」


 と言いつつ彼はカウンターの上に品物を置く。


「!? すこしお待ちください」


 天ケ瀬は驚きを一瞬で鎮静化させ、すぐに【鑑定】をおこなう。


「ほ、本物ですね……」


 彼女はまた驚いたあと、受付にあるパソコンを操作する。


「依頼主に連絡しました。外国の方なので現物の引き渡しまで時間がかかるでしょう」


「それは仕方ないですね」


 と礼音は言う。

 日本語で表記されていたので彼は気づいてなかった。


「それまでの間、こちらで責任をもってあずかりますね」


 と天ケ瀬は言ってから、


「三日月様は先日法人を設立されたばかりですね。【懸賞クエスト】において、わたしどもが依頼主と間に入る場合は仲介料が発生することはご存じですか?」


 彼に質問をする。


「いえ、初めて聞きました」


 0.1秒ほど天ケ瀬の表情がゆがむ。

 ちゃんと説明しておけと同僚に心の中で言いながら、


「三日月様が受け取る報酬の5%を頂戴することになります。いまですとまだキャンセルは可能ですが、いかがなさいますか?」


 彼に判断をあおぐ。


「いえ、引き続きお世話になろうと思います」


 礼音は即答する。


(外国人相手だもんな)


 自分の語学力にまったく自信がないので、選択の余地はなかった。


「外国人相手だと翻訳もお願いできるのですよね?」


「はい。わたしどもが仲介する際は翻訳も物品のあずかりもいたします」


 彼の問いかけに天ケ瀬は微笑みながら答える。


(やっべー、仲介キャンセルしてたら【ヌーカ】をあずかってくれなかったのか!)


 礼音は思わぬ落とし穴を発見したように感じて、背中に冷や汗をかく。


「ほかに何かご用はありますか?」


 天ケ瀬に聞かれて、彼はシュオからもらった金貨50枚を出す。


「これを現金に換えて法人の口座に振り込んでもらえますか」


「承知いたしました。しばらくお待ちください」


 天ケ瀬は金貨を受け取ってから手続きを開始する。

 

「依頼人から接触があった際、こちらか連絡を差し上げるので連絡がとれる連絡先についてうかがいたいのですが」


 手続きが終わったところで彼女に言われ、礼音は紙にメールアドレスと電話番号を書く。


「できれば都内にいていただけるとありがたいです」


 天ケ瀬は遠慮がちに言う。


「依頼人がいつ到着するのかわかりさえすれば、調整はできます」


 と礼音は答える。

 さすがに予定がわからないのに待ち続けるのはしんどい。


「はい。依頼人次第ですが、なるべく早めにお知らせしますね」


 という天ケ瀬の返事に彼はうなずく。

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