第12話「集めた素材」

 礼音は都市リーメに戻ってさっそく交易ギルドに顔を出し、素材の鑑定を依頼する。


 シュオがすぐに鑑定をはじめてくれた。

 

「おお、千年樹の葉に、鳳凰の羽、エンシェントボアの鱗があるじゃないか!」


 そして彼は興奮で頬を紅潮させながら早口で言う。


「これらは【ヌーカ】という薬の材料になるんだよ!」


「【ヌーカ】?」


 礼音は引っ掛かりを覚えて、自分の記憶を掘り起こす。

 たしか【懸賞クエスト】で依頼があった薬の名前だ。


「【ヌーカ】なら白金貨20枚で買い手がつくだろう。やったな!」


 とシュオは礼音を称える。


「ちょっと待ってもらえませんか」


 と彼はシュオを制止した。


(白金貨20枚って20億円くらいだよな。【懸賞クエスト】の金額はいくらだったっけ?)


 もしも20億円以上の金額がかかってるなら、地球に持ち帰ったほうが彼は得をする。


「もしかしたら俺の故郷でほしがってる人がいるかもしれないので」


「うん? そうなのか? 誰に売るのかはレオン殿が決めることだな……」


 礼音の言葉を聞いたシュオは残念そうにしながら言う。

 同時に落ち着きも取り戻す。


「まずは故郷と相談させてください。作成はお願いできるのですか?」


 タイミングを見て礼音が聞く。


「ああ。だが、手数料として金貨1枚が必要になる。高レベルの調合スキルを要求される、希少な薬だからね」


 とシュオは答える。


「当然ですね。一緒に持ち帰ったほかのアイテムはどうですか?」


 と礼音は続けて聞いた。


「そちらはあわせて金貨60枚といったところだね。これから【ヌーカ】の手数料を引く形でかまわないかな?」


 シュオは報告し、確認する。


「ええ、それでお願いします」


 礼音は問題ないと言う。


(2日ほど森林を散歩して収入が約6000万円か……夢があるな、この世界)


 内心そう思い、顔がにやけてしまうのを我慢する必要があった。


「しばらく待っててくれるか? すぐには作成できないからね」


「わかりました」


 と礼音は答える。


「ああ、報酬の金貨59枚は払っておくよ」


 シュオから金貨を受け取り、せっかくだからこちらで何か食べようと思う。

 すこし迷った末、彼は前回と同じ場所に行って違うものを味わうことにする。


「今日はそうだな。ホルホル鳥の肉にしようか。あとは魚と果物も」


 どんな味だろうと楽しみだった。

 

「うん、美味い。やわらかい」


 ホルホル鳥の肉は鶏肉に近い印象だ。

 魚は塩焼きにされたものが出てくるが、味としては普通である。


「……日本のほうが美味いかも?」


 と思いながらリンゴのような果物を食べてみたら美味だった。


「魚以外は美味いな」


 礼音は自分の中で結論を出す。

 もっとも魚もまずいわけではないのだが。


「ここは海から遠いしね。やっぱり魚は近い場所で食うほうが美味いよ」


 と彼のつぶやきを聞いたらしい客のひとりが言う。


「そういうものなんですね」


 礼音は相槌を打つ。

 食事を終えて戻るとシュオが対応してくれて、


「やあ。【ヌーカ】はできたよ」


 と言ってカウンターの上に紫色の液体が入ったガラス瓶を置く。


「ありがとうございます」


 彼が受け取ると、


「あなたの故郷での買いとり価格次第では、こちらで売ることを考えたらどうかな?」


 とシュオが笑顔で言ってくる。


「そのつもりですよ」


 礼音は波風を立てないために答えた。




 彼が帰ったあとシュオは、


「まさか【ヌーカ】の材料をあっさり見つけるとはな。やはり【トレジャーコレクション】を獲得しているのだろうか?」


 と言う。

 それを聞いた若い女性職員が、


「宝蛇をひとりで倒した人だけが獲得できるという、幻の究極スキルですか?」


 と目を輝かせて聞く。


「そうだ。レオン殿はおそらくそうだろう」


「ひとりで倒せるなんてすごいですよね。まだ若いのに素敵!」


「ねー! 彼、いま独り身なのかしら?」


 女性職員たちは礼音を褒め称える話題で盛り上がっていた。

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