戦い終わって 後編
いくら探しても見つからない。結局、捜索は打ち切られた。戦火に飲まれて死んだだろうと。
彼こそ、後のブレトンだったのだろう。
拾ったのは、アーマニタかも知れない。
「でも、担任はあきらめていなかった」
「ええ。多分」
マノンの予想を、オデットは肯定した。
「おそらく、目星はついていたのではないでしょうか? だから、騎士団の中で黒幕を探そうとしていたのでしょう」
それ以来、ジャレス・ヘイウッドは再び、人との接触を極力避けるようになった。
「でも、あなた方と交流することで、再び人間との絆を取り戻そうとしたのです。彼は、何もいいませんが」
担任は、相変わらず眠っている。
「砂礫公に代わって礼を言わせたいただきます。あなたたちがいなければ、彼はずっと心を閉ざしたままだったでしょう。ありがとうございます」
オデットが、手を差し伸べてきた。
「礼を言うのは、こちらの方です。ありがとうございました」
マノンも、オデットと握手をかわす。
「んな?」
担任が、眠りから覚めた。
「まだ、調子が悪いな。おいお前ら、オレが寝ている間に何か言ったか?」
「あんたの寝相が悪いって言っていたのよ!」
エステルが茶化す。
「んだよ、いいじゃねえか。久々に気持ちいいんだ。もうちっと寝かせてくれよ」
また、担任が眠りについた。
寝息を立てる担任の側に、マノンは腰掛ける。
「おやすみ、担任」
マノンは担任の頭を持ち上げて、膝枕をした。
「ちょっとマノン! それは大サービス過ぎはしないかしら?」
頬を染めたエステルが、両手で口を押さえる。
「担任はがんばったよ。だから、これくらい平気」
「ハレンチよ! ゴブリンビンビン物語よ! 今すぐ担任から離れなさい、妊娠しちゃうわ!」
えらく興奮気味に、エステルが警告してきた。
「大丈夫。担任はそんなえっちなこと、しないよ」
担任の髪を撫でながら、マノンは微笑む。
こんな無防備な寝顔ができるようになるまで、担任がどれだけの友人を失ったのだろう。
どれだけの苦難に絶えてきたのか。
今のマノンには分からない。
一つ言えるのは、またこうしてみんなと笑って明日を迎える日が訪れたということだけだ。
「では、ワタクシも事態の収束に参ります。最後にマノンさん、一言だけ忠告を」
オデットは、マノンを見下ろす。
「あなたが担任をお慕いしていることは重々承知しています。それについては、何も問題ありません。お子を宿したいのであれば、ご自由に。人間とゴブリン、どちらの属性を持つかは分かりかねます。けれど、概ね元気な子として育つでしょう」
「そう、ですか」
そこまで露骨に言われると、照れくさい。弁解のしようもなかった。
「懸念すべき材料は、担任と添い遂げるか、冒険者として家庭を捨てるか。それだけです」
マノンは、息をのんだ。
大切な人がいる家庭を守る立場に立つ道と、自分の我を通して冒険者の道がある。
選択する覚悟が、今の自分にあるだろうか。
担任の寝顔を見ながら、マノンはまた迷いの思考に入り込む。
「今、無理に決める必要はございません。担任とて、決断を迫るような亭主関白でもありますまい。彼は部下に対しても放任主義です」
「言えてるわね」
腕を組みながら、エステルがうんうんとうなずく。
「あなたはまだ若い。可能性は無限大です。どうか、悔いのない道をお選びください。ではごきげんよう」
言い切って、オデットは飛び去っていく。
「マノン、ちょっと焦りすぎじゃない?」
こういうとき、エステルは優しい言葉をくれる。
「あなたは生き急ぎすぎる一面があるわ。一生のことなんだから、じっくり吟味していいと思うの」
「そうだね。気長に決めていこう。一歩ずつ」
「ただし、清い交際をするのよ! すぐにお腹を大きくしちゃうような、ふしだらな関係は許さないんだから! あたしが担任を焼き尽くすから!」
「分かってるよ」
マノンは、エステルに笑いかけた。
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