戦い終わって 前編

 マノンは、最後の一撃を放った様子を思い出す。


 ブレトンが、最後の力を振り絞って、魔神結晶を掴んでいたのだ。

 自分の魔力を、注ぎ込んだに違いない。

 最終的に、魔神を葬り去ったのは、ブレトンなのだろう。


 魔神が絶命すると、周辺に沸いていたモンスターたちが黒い煙となって霧散した。


「とてつもない力です。まさか、魔神結晶を切り裂くとは」


 オデットが、驚愕の表情を浮かべている。


 魔神結晶は、色を失っていた。ただの石ころとなり果てている。

 マノンは、結晶だけでなく、魔神すら滅ぼす力を有していることに。


「わたしは、勝ったの?」


 マノンは刀を落とす。柄を握る力すら残っていなかった。


「はい。魔神は、あなたの技によって両断されました」


 オデットが、この場の安全を宣言した。



 生徒たちが歓喜に騒ぎ出す。


「平気? どこか、痛いところはない?」

「わたしは大丈夫。みんなは?」

「全員無事よ。ありがとう。あなたのおかげよ」

「よかった」


 周囲を見回すと、生徒たちが互いをたたえ合っていた。

 疲労困憊のマノンに気を使ってか、こちらには近づこうとしない。



「担任は?」


 マノンが聞くと、エステルが草むらを指さす。


「あいつったら、まだのんきに寝ているわ」


 大の字になりながら、担任はイビキをかいていた。


「こっちは必死だったってのに」


 ため息をつき、エステルがブロードソードを担ぐ。


「それにしても、担任はらしくなかったわね。自分の身を犠牲にするなんて」


 今まで、そんな人じゃなかったのに。


「知りたいですか? 彼の、担任の過去を」


 唐突に、オデットが話題を切り出す。


「オデット先生は知っているの? あいつのことを」


 エステルも、好奇心が湧いたようだ。


「ええ。マノンさんの体内に入るきっかけになったのも、その事件でしたから」


 そういえば、オデットは当時、負傷していた。 


 不遜公が、まだ力を付けて間もない頃のことだ。

 担任は人間の勇者とパーティを組んでいたという。

 魔神結晶を探し出して、浄化するという危険な仕事だ。


「担任は、今よりもっと擦り切れた性格でした。心を閉ざし、誰とも話そうとしませんでした」

「意外ね。今のあいつとは大違い」


 びっくりしたような表情を、エステルが見せる。


 幼かった担任は、まだ魔王の力を上手にコントロールできなかった。

 ウスターシュ学長とともに勇者と同行して、力の使い方を学んでいく。


「そのとき知り合ったのが、勇者の息子でした。彼はゴブリンやその他の魔物とも、仲良く接してきました。もちろんワタクシとも」


 頑なだった担任の感情も、次第に勇者たちと打ち解けていったらしい。


「世界中の魔神を倒していく過程で、『赤き戦乙女』、つまり、エステルさんのお母さまとも知り合いました。後に、彼女はドロップアウトしてしまいましたが」


 結果、担任たちは大型の魔神を倒した。

 担任の父親たちである魔王が、人間と協力して倒した個体と、同じほどの力を持っていたという。


「母が倒したのは、それほど大きな魔神だったのね」


 グレーターデーモン級だと噂には聞いていた。しかし、実物は遥かに強大な相手だったのである。


「はい。ですが、そこからが最悪でした」


 あまりにも強すぎる上に、魔王すらも手懐けていた勇者は、世界から危険視されてしまう。

 結果、勇者は自国の王の命で処刑された。


 だが、最悪はその直後に訪れる。


「勇者の息子が、魔神と融合してしまったのです。世の中に絶望して」


 ある程度まで集まった魔神結晶を、勇者の子どもは取り込んでしまったのである。


「魔神となった友を止めるため、ジャレスやワタクシたち魔王は一丸となって、魔神に挑みました」


 オデットは深手を負い、担任は断腸の思いで、英雄を討った。


「しかし、魔王となった友人の妻は巻き添えになって死に、子どもは行方不明になりました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る