凍空剣(とうくうけん) 後編
「我が申し出を、断ると?」
「わたしは誰の手も借りなくたって、ちゃんと自分の足で歩けるんだ! あなたを倒して、それを証明する!」
魔力を刀身に込めながら、剣を振り上げた。
見つける。魔神の核を。きっと再生に必要な核があるはずだ。
今こそ、自分の力を信じるのみ。
精霊石の力と、己の力を掛け合わせる。
これなら、あの技が撃てるかもしれない。
祖父から教えてもらった最強の技を。自分では発動できないと思い込んでいた技を放てるはず。
「凍――」
凍空剣を放とうとしていたマノンの眼前に、岩石が。
魔神が投げつけたのである。
やれるか。
しかし、集中し切れていない。
このままでは、不完全な凍空剣を打ち込んでしまう。
考えている間にも、岩は目の前まで迫っていた。
やむを得ない。この身が潰されようが、なんとしても一撃を。
マノンが決意を固めたそのときだった。
一筋の光がマノンを横切り、岩を一瞬で砕く。
誰がやったのか?
エステルではない。彼女は雑魚モンスターの相手をしている。少なくとも生徒ではなさそうだ。
オデットでも、ウスターシュでもない。彼らも周辺の相手で忙しくしている。
では、一体。
答えは考えるまでもなかった。
振り返る。
担任砲。
雪だるまの中から、小さな腕が伸びていた。担任の腕が。彼の持つ銃からは、煙が上がっている。
「雪だるまの中から、砲撃だと?」
胸を貫かれたブレトンが、膝を崩す。
――今だマノン、行け。
担任の声が、聞こえた。
意識なんて、戻っていないのに。
幻聴かも知れない。それでも。
担任の思いを、剣に。
「
今まで上げたことのないボリュームで、声を出す。
不遜公が撃ったときよりも速く、刀を振り下ろした。
ヒムロ製の剣から放たれた衝撃波が、魔神の身体を駆け抜ける。
虚空すら切り裂く必殺の波動は、確実にブレトンの魔神結晶へ届いたに違いない。
ただ、「理論上は」だけれど。
マノンの肩から、湯気が立っていた。
それほどまでの魔力を放出したのだ。
だが、魔神は嗤っている。
口元をつり上げて、不敵な笑みを貼り付けていた。
「だ、ダメか」
全力全開の一撃。なのに、通じない。やはり自分はダメな冒険者なのか。
「いいえ。ご安心を」
オデットが言うと、ブレトンが膝をつく。
「まさか、余が人間などに……」
うめき声を上げながら、魔神結晶が光を失う。
それっきり、魔神の気配がぱったりと消えている。
凍空剣が、再生能力を持つヒドラを突き抜けたのだ。
「勝ったの?」
「そうよマノン。あなたが勝ったのよ」
エステルから告げられて、マノンはようやく安堵した。体じゅうの力が抜けていく。
マノンの腰を、エステルが優しく持ってくれた。
「これが、戦いから生み出されない、人間の可能性だというのか?」
「あなたは誤解している。わたしは、自分の力を担任の中に注ぎ込んだ。あなたは担任によって倒されるべき」
おそらく、本当にブレトンを倒したのは、担任だ。
自分は剣を振るったに過ぎない。
担任がいなければ、全滅していたことだろう。
「認めぬ。人の可能性など。だが、お前なら、あるいは人を正し、く」
魔王の身体は、空間ごと半分に切り裂かれた。
ブレトンだった灰を見つめながら、魔神結晶がブレトンの身体から離れて、コロコロと転がっていく。
灰色になったブレトンが倒れ、砂と化した。
人を見捨てた英雄は、人を信じた魔王に看取られながら、この世を去った。
「ばか、や、ろう」
雪だるまから出てきた担任が、バタリと倒れ込む。
「担任、しっかりして、担に……」
どれだけ呼びかけても、担任は目を覚ますことはない。
「待って、エステル」
マノンは、担任に駆け寄ろうとするエステルの腰を掴む。
「んご……」
担任は、可愛い寝顔でイビキをかいていた。
「このまま、寝かせておいてあげよ」
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