戦いだけが人間の本質ってワケじゃない 後編

「ちいい!」


 魔法障壁を展開して、衝撃波を防ぐ。だが、勢いまでは殺せない。キリモミして大きく後ろへ飛ばされた。背中を何度も、地面に叩き付けられる。


「くそお」


 苛立ちごと、ジャレスは荒く息を吐く。

 打つ手がない。


 だが、応援を待つわけにはいかなかった。

 マノンたちにブレトンの相手をさせるわけには。


「諦めろジャレス・ヘイウッドよ。今にも我の配下がお前の生徒たちを壊滅させるだろう」


 またしても不愉快な顔、不愉快な声。


「させるか、このヤロウ!」


 ジャレスが『担任砲』を放つ。周辺の魔物を巻き込んで、魔神もろとも貫いた、はずだった。


 魔神は、担任砲の弾丸を、片手で受け止めている。

 山やダンジョンすら溶かす程の威力なのに。


「担任、パワーが落ちています。ムダ撃ちはほどほどに」


 オデットがジャレスを叱り飛ばす。


「けどよお!」

「我々には、まだ力強い援軍がおります」


 言葉と共に、オデットが上空を指さした。


 無数の星が、夜空にきらめく。いや、あれは星ではない。隕石だ。


「学園には、指一本触れさせぬ!」 


 空から隕石が降り注ぎ、魔神や周辺のモンスターに殺到した。誰かの呪文である。


 放ったのは、ウスターシュだった。

 味方を正確に避けて、モンスターだけを灰にしていく。

 大雑把なエステルにはできない、器用な攻撃だ。


「グフフ、賢者ウスターシュよ、見事なり。だが、一歩及ばぬようだな」


 だが、正面から隕石を受けた魔神は、涼しい顔をしている。


 ウスターシュの全体攻撃を持ってしても、モンスターの数を減らすまでには至っていない。


「ちいいいいい! 今一度」


 再び、ウスターシュが手をかざす。


浄焔セイクリッド・ブレイズ!」


 ウスターシュ版の浄焔が、杖から解き放たれる。


 魔神は防ぐ動作すら見せず、まともにウスターシュの魔法を浴びた。

 ブレトンの肉体が、またしても黒焦げになる。だが、一瞬で再生した。


「なんという!?」

「ダメ、ヒドラの能力で再生しています!」


 ウスターシュが印を結ぼうとするのを、マノンが止める。


「やべえ、ウスターシュ、魔力を温存しろ! 作戦を立て直して、確実に仕留めるぞ!」 


 さすがのジャレスも、限界を感じていた。


「ここまで追い詰められ、わが魔神の力は、開放せぬか?」


 魔神結晶から、魔神の声が響く。


「生徒さえ危険にさらしても、自身のプライドを貫くか?」

「ああ。テメエの力になんて頼らない。オレ様は、自分の力で生徒を正しい方へと導く」


 魔神が高笑いをする。


「魔王が人間共の子どもを育てるか。異な事よ、砂礫公。魔王は人を支配してこそ。人間と手を取り合おうなどという考え自体、正気とは思えぬ。人と魔は、相容れぬもの。それは、歴史が証明しておるではないか」

「ハンッ! んだよエラそうに! テメエにとっては、どっちもエサに過ぎねえだろうが!」


 ジャレスは、魔神に向けて魔法銃を撃つ。


「自分で両者の関係性をぶち壊し、どっちも美味しくいただこうって魂胆なんざ、オレたちにはミエミエなんだっての! テメエのスキになんざさせねえ! テメエは絶対に滅ぼす!」

「その意気やよし。だが、実力が伴っておればの話だが?」


 対する魔神は、手刀だけで衝撃波を放った。赤黒い魔力が刃と化し、担任に斬りかかる。


 魔法銃の銃身で、担任は防ぐ。だが、隻腕を守るヨロイに傷が入った。



 やはり、自らが魔神の力を開放して……。


「マノン生徒、これを使うの!」


 ピエレットが、マノンの元まで飛んでくる。

 マノンの手に、二対の指輪を差し出した。


「モニクさんの自信作なの! ここを食い止められるのは、あなたしかいないの!」


 ピエレットから渡されたリングを、マノンが指にはめた。

 二つの指輪の片方には、浄化した精霊石がはまっている。

 だが、もう片方は空っぽだ。


「受け取れ、マノン!」


 ジャレスは、自分の精霊石を、マノンに投げて渡した。魔神の力を浄化した、安全な魔力石である。


「そいつを指輪に、はめ込むんだ!」

「でも、精霊石は普通の人間には扱えないんじゃ?」

「今のお前なら、使える!」


 復活間近の魔神を倒せるのは、マノンしかいない。


「分かった」


 指示通り、マノンは指輪に精霊石をセットする。


「よし、そいつをぶちのめしてやれ!」

「やらせん」


 フリアンは、炎の剣を展開する。

 炎の衝撃波が放たれた。どういうわけか、ジャレスを避けるように。

 ジャレスの脳裏に、イヤな予感がよぎる。


「テメエまさか!」


 ジャレスは振り返った。

 視線の先には、マノンが。生徒たちがいた。ジャレスを助けようと加勢に来てくれたのだ。


 全員が、フリアンからの攻撃に気づく。


「やめろおおおおおおおおお!」


 ジャレスは駆け出す。間に合ってくれと願いながら。

 マノンを庇うように、ジャレスはその背に衝撃波を受けた。


「担、任?」


 マノンを視線が合う。どうやら、間に合ったようだ。


「へ、へへ。ざまあ、ねえ、な……」

「担任!?」

「オレ様に構うな。ヤツを、ぶっ飛ばせ!」



 自分の体温が、徐々に失われれいくのがわかる。


 それを確認した直後、ジャレスの意識は遠のいた……。

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