マノン怒りの一閃 2
「死にはしないわ。これでも調整したのよ」
クールダウンのため、ランチャーから煙が上がった。
セラフィマが、エルショフ議長の元へ向かう。
直後、地震が発生した。
「何があったの?」
「戦闘で地盤が耐えられなくなったんだよ!」
ネリーが、ゴーレムの腕だけを作り上げ、その場にいる人々をムリヤリどける。
「マノンも!」
「わたしはいいから他の人を優先して」
力を使い切り、マノンも弱っていた。しかし、助け出さねばならない人が多くいる。
理事長まで救い出し、あとはマノンたちだけだ。
地割れが起きて、崖が崩れ始めた。
「きゃあああ!」
セラフィマが、崖から落ちそうになる。飛ぶ力を失っていては、谷底へ真っ逆さまだ。
手を伸ばし、マノンはセラフィマの腕を掴む。
「セラフィマ!」
理事長がセラフィマを助け出そうとする。
が、エステルが「ダメ!」と羽交い締めにした。
「今行けば、全員が落ちてしまうわ!」
崖にヒビが入る。激闘のせいで、地盤が緩んでいるのだ。マノン以外の体重が乗れば、崖が崩れてしまう。
「そうだわ、ネリーのゴーレムは?」
「ゴメン無理ィ!」
ゴーレムを作れたとしても、自重で崖の下に沈む。
「なんでですの? わたくしはあなたを落第生として情けをかけようとしていましたのよ?」
「今あんたを助けられるのは、わたしだけ。だったら、やるべきことは一つ!」
「このままでは二人とも落ちてしまいます。手をお離しなさい!」
「いやだ! セラフィマは死なせない!」
腕の力は、限界に近い。
それでも、力の続く限りは、セラフィマを引っ張り上げる。
「もう少し」
片方の手を伸ばして、どうにかセラフィマを引き上げた。
しかし、重さに耐え切れなくなり、完全に崖が崩壊する。
「そんな!」
「マノンさん!」
二人から、重力が消えた。ここまでか。
だが、一向に落下する気配はない。
崖下から、担任が二人を支えたのだ。
「担任!」
「ヘイウッド先生!」
「黙ってろ、いくぞ!」と、担任は両腕を伸ばす。
フワリと浮かび上がって、マノンとセラフィマは、地上に降り立った。
だが、担任は崖下へ真っ逆さまに落ちていく。
かと思えば、異様な早さで登ってきた。腕も使わず、駆け足だけで。
身体が軽く小さいからできる芸当なのだろう。それにしても早すぎるが。
「先生!」
「遅れてスマン。よくやった、二人とも。よく生きていた」
独断専行しすぎたセラフィマを特に責めるでもなく、生きていてくれただけで賞賛してくれる。
「あの、ヘイウッド先生、いえ、
セラフィマが、担任に頭を下げた。
「その呼び名はよしてくれ。慣れてなくってな。それに、オレは魔王じゃねえ」
「あなたは砂礫公です! 誰も認めなくても!」
「そっか……」
担任はため息をつく。
「先生、申し訳ございません。あなたを信用していませんでした」
「いいっていいって。オレ様の良さは、オレ様だけが分かってりゃいい。お前さんもお前さんの長所を活かしな」
あぐらをかきながら、担任はセラフィマの膝下をバシバシ叩く。
担任は、マノンと向き合った。
「マノン、学校は、オレ様がウスターシュに掛け合って、なんとかしてみるぜ」
「わたし、学校がなくなったら、どう生きていいのか分からない。エステルとも、離ればなれになっちゃう」
エステルにだって生活がある。戦乙女になって、みんなを守るだろう。
マノンは女王様を守る騎士になって、エステルをサポートする。
「でも、何か違う気がする。それが何なのかわからない。わからないよ担任!」
マノンは、感情を吐き出す。
将来は見えてきた。しかし、本当に自分のなりたかったものはこれなのか、判断がつかない。
マノンはずっと考えた。答えが出ないまま。
「自分が何者になるかなんて、すぐに決断できるヤツなんて、そんなにいねえよ。じっくり考えな」
担任は、脂汗をかいている。
「それに、まだ終わってねえ」
担任が、振り返った。
「その通りです。呑気におしゃべりしている余裕はありません、砂礫公!」
オデットは、こちらに背を向けたままである。
唯一飛べる人物が、マノンの手助けをしなかった。
理由は、できなかったからだ。
目の前に、危険な人物が立ち塞がっていたから。彼女をこちらに来させまいと。
突然、足下が激しく揺れた。
再び地震が。
引き起こしたのは、オデットと対峙している、アーマニタだった。
「どいつもこいつも役立たずね! 足止めもできないなんて! いでよ魔神!」
アーマニタが、魔神結晶に呼びかける。
それだけで、アーマニタの美貌が元に戻った。
「アハハハ! 一瞬でヤケドが回復したよ。素晴らしい、さすが魔神結晶の力だね!」
黒焦げから再生したアーマニタが、自分の身体に魔神結晶を埋め込もうとしている。
「やらせません!」
オデットが磁力で、周辺の石を弾丸へと変えた。
ところが、発射する前に石が落下する。
アーマニタが、オデットに向けて手をかざす。
軽く払っただけで、オデットは吹っ飛ばされた。
地面に叩き付けられ、オデットは何度もバウンドする。
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