マノン怒りの一閃 1

 エステル、マノン、オデットの三人を相手にしても、ブレトンは平然としていた。


 特にエステルは、浄焔を一発撃っている。次のチャージまで、どうしても時間が掛かってしまう。


「ブレトン団長、あんた君主ロードクラスよね」


 聖騎士パラディンの上位互換である君主は、彼単体で国が持てるレベルの職業だ。

 どうして彼クラスの実力者が、国王の側近に甘んじているのかと思うほどである。


 装備品も高級だ。店売りでは絶対に入手できない品々で身を固めている。

 スクエア盾に彫られた十文字の装飾は、騎士団の特注品であることを象徴したモノだ。


「そんな人が、どうして魔族と手を組んだのです?」


 斬りかかりながら、マノンはブレトンに問いかけた。


「人々が、争いをやめないからだ!」




「人間を滅ぼすのは、人間自身だ!」



「最っ低! どれだけの人間が、あんたを慕って教えを請うたと思っているの? あたしもセラフィマも、あんたは誇りだった! あなたのせいで、一人の子どもが死にかけたのよ!?」

「死んだなら、それまでのこと!」


 ブレトンは、剣を打ち込んできたエステルを、片手剣だけで弾き飛ばす。


「幼い命一つ守れぬ冒険者ごときに、この大地は任せられない!」



 違う。


 ブレトンのしていることは、彼の言う「愚かな人類」と同じ考えだ。



「人を人と思わない時点で、あなたは正義じゃない! あなたの考えは、魔神と同じ!」


 マノンの剛剣が、ブレトンの盾を突き破る。


「ボクの盾を切り裂くか! 魔族の攻撃すら退けるボクの盾を!」


 ブレトンが、剣に魔力を注ぎ込む。

 灰色の刀身が、美しい銀の耀きを映し出した。


 ブレトンが銀の剣を振り下ろす。

 幻想的な光は、殺人的な衝撃波へと変わった。


 マノンが先頭に立って、刀で衝撃波を受け流す。


 行き場を失った衝撃波が、岩と衝突した。

 いともたやすく、岩が切断される。


「くう!」


 今度は連続で、衝撃波が襲いかかってきた。


 マノンは刀を振り、銀色の衝撃波を蹴散らす。


 だが、マノンも長くは続かない。もう一度来られたら、今度はさばき切れないだろう。


「貴様、高位の魔族か?」

「そんなわけないでしょ!」


 エステルがマノンの盾になり、ブロードソードで衝撃波を受け止める。


 だが、エステルが吹っ飛ばされてしまった。マノン共々、地面に叩き付けられそうに。


 オデットの両足の爪が伸びて、マノンとエステルをフックした。優しく、地面へ置く。


「マノンさんは、肉体と魂をワタシと共有していました。ですが、負荷が掛かりすぎていたのです。ワタシも新しい身体を手に入れなければ、と焦っていました。ようやく身体を手に入れたのですが、マノンさんに驚きの変化が生じていたと知ります」


 右拳で刀身を殴り、オデットはブレトンの攻撃をそらした。

 左の拳で彼の胸板を叩く。


「ワタシの力を制御することで、マノンさんは生まれた頃からトレーニングされていたのです。それも、魔族や伝説の英雄でさえ逃げ出すほどのレベルで。生まれてから一四年間、ずっとです」

「なんということだ。人の可能性とは、かくも恐ろしい。やはり人類を進化させるのは闘争か」


 剣を構え直すブレトンの顔に、冷や汗が光る。


「それじゃあ、今のマノンは」

「そうですエステルさん、今の貴方より遥かにお強いかと」


 もっとも驚いていたのは、他ならぬマノン自身だった。


「わたしに、そんな力が」

「ですが、その力を発揮させるには、マノンさんの身体は弱すぎました。つまり、マノンさんがワタシを制御していたのではありません。ワタシがマノンさんの力をセーブしていたのです。それも、この間までの話」


 オデットの言葉を聞き、ブレトンがヒザを屈する。


「だが、ボクもタダでは終わらん」


 闇雲に、ブレトンは地面に衝撃波を連発した。


「わあああ!」

「おいおいおいおい!」


 すぐ側で、リードとイヴォンの悲鳴が上がる。


「見つけたぞ!」


 ブレトンの視線の先には、エルショフ理事長が。

 光学迷彩の繊維が破れて、身体を隠せなくなったのだ。


「早く逃げてください!」


 イヴォンに背中を押され、エルショフ議長が走った。


 ブレトンは、エルショフ理事長に向けて、再び衝撃波を放つ。


「お父様!」


 セラフィマが、空から二人を抱え上げようとする。


「あああ!」


 堕天使セラフィマの両翼が、切り裂かれた。


「よくも……」


 友人を傷つけられ、マノンの感情が爆発する。


 自分でも信じられないほどの速度で、マノンはブレトンの攻撃をすり抜けていく。

 電光石火の一撃により、マノンはブレトンの胴を薙いだ。


「ぬううう!」


 脇腹から出血し、ブレトンは苦悶の表情を浮かべる。だが、尚も攻撃をやめようとしない。


「この程度では、ボクは倒せない!」

「じゃあもっと痛くしてあげるわ」


 ブレトンの注意がセラフィマたちへと向いている間に、エステルはブレトンの背後に回っていた。


「さよなら、ブレトン先生……いや、ブレトン!」

 

 ランチャーの銃口が大きく開く。



浄焔セイクリッド・ブレイズ!」



 あらゆる業・邪念・罪を焼き尽くす炎の光芒が、エステルのランチャーから放たれた。


 不死鳥の如く燃えさかる爆炎が、ブレトンを焼き尽くす。


 ゼロ距離で浄焔を撃たれ、ブレトンは黒焦げに。

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