第五章 魔神復活!
ジャレスVSアーマニタ!
ジャレスは、スケルトンの頭を打ち抜く。用済みとばかりに。
その気になれば、簡単に止めることはできた。
地上に上がった以上、ヒドラはもう暴走させるだけでいい。
ヒドラを乗りこなし、ジャレスは砦に突っ込む。
「ギャハッ! そら!」
ヒドラの首攻撃によって、廃砦は跡形もなく破壊された。
「いやぁ、もろいな、こいつは。欠陥住宅ってレベルじゃねえな」
ジャレスは、アーマニタという魔族と対峙する。
「砂礫公、ジャレス・ボゥ・ヘイウッド! 六〇年前、低級魔族でありながら人間側について、当時魔界を支配していた魔神を退治した、憎むべき敵!」
憎しみの目でジャレスを見ているが、相手はどこか楽しそうだ。
妙な胸騒ぎがする。この頭目にまとわりつく瘴気はなんだ?
ヒドラを手懐け、圧倒的に有利なはず。
なのに、不快感はみるみる膨れあがって、収まらない。
「丸呑みにしてやるぜ! 魔族ども!」
ヒドラのアゴが、アーマニタに届いた。
しかし、アーマニタはパンチ一発で、ヒドラの首を切り落とす。
時間をかけて、ヒドラの頭が再生を始めた。数秒で元の頭になる。
「ほう、やるもんだな」
「あんたごとき下級の魔物を相手に、本気にならないといけないなんてね!」
アーマニタの瘴気が、飛行船のように膨張した。
ただの人間から、異形の怪物へと変貌を遂げる。
こめかみから山羊のような角が生え、筋肉が赤黒く変色した。
クツから鋭い爪が飛び出す。
違和感の正体はこれだ。
自分たちが滅ぼしたはずの、
かつて、世界は魔神が支配していた。
調子に乗った魔族たちは、人間界ならず魔界すら脅かし始める。
魔神はオンリーワンを主張し、自分さえ良ければいい政策を打つ。
奴らにとって、ジャレスたち下級魔物はゴミだった。
頭にきた低級魔族は人間と手を組んだ。
互いの協力を得た人魔連合軍の手により、魔神は倒される。
魔神を討ち滅ぼした人間は、人々から英雄として迎え入れられた。
低級魔族の代表たちは、
人間とも争わない政治を目指した。
ジャレスもその一人である。ジャレスたち下級魔物は、魔神から力を奪った。
「こいつは、アークデーモン級か」
二〇数年前に、赤き戦乙女と共に倒した魔族より強い。
「その通りさ。この身体になるまで、どれだけの魔神結晶が必要だったか!」
アーマニタが、服の胸元を引き裂いた。
谷間から、肉体に埋め込んだ魔神結晶が見える。
銅貨ほどに小さいが、結晶は三つもあった。
「ヒドラの持つ結晶と、冒険者学校に保管してある結晶を手に入れれば、アタシはさらに強くなる! そして、アタシは魔神の母となる!」
本性を現したアーマニタが、ヒドラの胴体に滑り込む。
ジャレスの元まで至近距離まで近づき、爪の脚で蹴り込んできた。
素早い。ジャレスの胸に切り傷ができている。身体を反らして避けたはずなのに。
またヒドラの首が、数本飛んだ。
「だが、取り扱えなかった。お前さん自らが、魔神に心を取り込まれる覚悟はなかったわけだ」
母体を提供する……つまり、自分が魔神の親となってコントロールすること。
それが、アーマニタの目的だろう。
しかし、逆に取り込まれつつあった。
「バカにするんじゃないよ! 人を日和ってるみたいにさぁ!」
「実際、日和ってんだよ、お前は!」
アーマニタを小バカにして、ジャレスが舌を出す。
「最強の力が手に入るってのに、肝心なところでビビっちまった!」
「結晶の制御がどれだけ大変か、貴様に何が分かるかってんだい!?」
「分かるさ。オレ様のオヤジは乗っ取られたからな」
全てが終わり、ジャレスの父はゴブリンの王国を作り、魔王となった。
しかし、魔神に魂を食われてジャレスに討たれる。
ジャレスは魔神結晶を、父の友だったピエレットの力で浄化した。
以降、ジャレスは魔神結晶を引き継ぎ、
自分の親を撃ち殺さなければいけないほど、ジャレスは追い詰められていた。
「魔神は、お前ら低俗なモンスターがこの地を治めることにお怒りだよ。お目覚めになる前に、始末せよと!」
「それで、オレ様たちをおびき寄せるために、この計画を実行に移したのか?」
アーマニタの正拳突きを、真正面から受け止める。
相殺できると思ったが、大きく後ろへ弾かれた。
「そうさ。あんたのカワイイ生徒たちも道連れにしてやるよ。そしたら寂しくないだろうさ!」
「させねえよ」
とはいえ、倒せるのか?
単なる冒険者が相手ならば、エステルやマノンたちに頼んだ。
経験者が相手とはいえ、彼女たちなら難なく攻略できるだろう。
アークデーモンは、自分一人で十分だ。
しかし、これはマズイかも知れない。
すぐ後ろにあるガイコツに視線を向けた。
ガイコツの首には、魔神結晶がぶら下がっている。
「こいつが欲しいか?」
ジャレスは、事切れたガイコツから首飾りをもぎ取った。
ヒドラの口元に、魔神結晶を近づける。
「それは、魔神結晶!」
「これが目当てだったんだろ? 大粒の魔神結晶。しかもお前がギリギリ制御できるジャストサイズだ。ところが、ヒドラのせいで取り戻せなかった」
大方、そんなところだろう。
「多くの犠牲を払い、今までかき集めた魔神結晶を制御して、ヒドラから奪い返そうと」
「だったらそうしな!」
ジャレスは、魔神結晶を放り投げ、ヒドラに食わせた。
ヒドラは魔神結晶のついた首飾りを丸呑みする。
知性を持たないヒドラは、魔神にはなれない。イノシシと同じく、単に凶暴化するだけだ。
「なんてことを!?」
アーマニタは、首飾りを取り戻すため、ヒドラを切り刻む。
しかし、ヒドラの再生能力に阻まれて魔神結晶までたどりつけない。
「胴体を切れば!」
だが、胴体を覆うウロコは、恐ろしく硬い。
アーマニタの力を持ってしても、たどり着けなかった。
おまけにヒドラは暴走している。
噛み付いてくる首を切り払うことで、アーマニタも消耗していた。
そのスキを狙って、ジャレスは魔力を解放する。
学校で撃った担任砲の数倍の魔力を、銃に込めた。
「ギャハハハハ! 耐えてみせろよ魔王サマよぉ!」
担任砲を、発射する。
担任砲か。自分でもネーミングは気に入った。
魔力の弾丸は、無限の再生能力を誇るヒドラすら焼き尽くす。
アーマニタは受け止められるつもりだったのだろう。
正面に腕を突き出して魔力での砲撃を繰り出す。
が、山すら削り落とす魔力砲撃に敵うはずもない。
みるみる押し出され、砲撃の反動もろとも浴びてしまう。
「ぎゃああああ!」
プツプツと、アーマニタの皮膚が沸騰している。
「魔神の力があれば、アタシだって!」
「そうか? だったらやるよ。ほら」
ジャレスは、アーマニタに向かって自身の力の源を放り投げた。
ピエレットの浄化魔法で、ジャレスの魔神結晶は精霊石となっている。
「へへえ! あんたバカだね! 魔神結晶を捨ててさぁ! これでアタシも魔王の力を手に入れられる! 精霊石になっているが、この程度の浄化魔法なん――」
「ギャハハハハハーッ! くたばれぇ!」
アーマニタが喋っている間に、ジャレスは二発目の担任砲を発射した。
殺人級の魔力弾を二発も浴びて、アーマニタは虫の息である。
「なぜだ! 魔神結晶を持っていないあんたが、どうしてこれだけの力を!?」
アーマニタは、恨めしそうな視線をジャレスに投げかけた。
「んなモン決まってんだろ? 魔神結晶がなくたって、オレ様は強いからだよ!」
魔神を倒して砂礫公となったとはいえ、ジャレスは一度も魔神結晶になど頼ったことがない。
ジャレスの力は、自身で身につけた強さだ。
父の二の舞を演じないように。
「そんな! 魔物としても、魔族としてもあり得ない! 引き継いだ力に頼らないなんて!」
「バカが。簡単に手に入った力になんざ、意味がねえんだよ!」
土煙を上げ、アーマニタの気配が段々と小さくなっていく。
しかし、さすがのジャレスも息が上がり始めた。
マノンたちが無事だといいが。
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