真犯人は? 後編

 もぞもぞと動いて、そっとナイフを掴もうとする。


「バカな考えはよすんだ」


 だが、ブレトンもマノンの動きを察したようだ。床のナイフを拾い上げる。 


「で、こいつはどうする?」


 アーマニタが、マノンに視線を向けてきた。


「武器も取り上げている。たいした抵抗もできんさ。ただし殺すなよ。この娘がいれば、ウスターシュや砂礫公はうかつに手出しできん。それより問題はエルショフ理事長だ。金が手に入れば解放してやれ」 

「指示してんじゃねえよ、テメエ。金をちょうだいしたら、おっさんは始末する」


 冒険者の一人が、手持ちのナイフを弄ぶ。


「殺すなと言っているだろ」

「うるせえ、財団のせいでこうなってんだろうがよ! 世界の浄化のために死ね!」


 ブレトンと悪徳冒険者が、口論になる。


 アーマニタが、二人の間に割って入った。


「世界の平和に、犠牲はつきものさね」


 魔族の持つパラソルから、槍が突き出る。


 ジリジリと、アーマニタが理事長に歩み寄った。


 マノンが、理事長をかばう。


「いいねいいね。あんたには借りがあるから、あんたから始末するのもいいかね?」

「ボクの生徒に手を出すな!」

「うるさいね! こいつだって、アンタが憎む人間じゃないか! どうせ死ぬんだ。くたばる時間が早まるだけだろうがよ!」


 今度は、ブレトンとアーマニタが激しく言い争う。


「はいドーン!」


 床から、巨大な手が突き出た。その勢いで、天井をも突き破る。ゴーレムの腕だ。


 多くの冒険者が、ゴーレムの腕に殴られて吹っ飛ぶ。


「何事だい!」


 混乱気味のアーマニタが、床に開いた穴に注目する。


 穴から出てきたのは、エステルと副担任のオデットだ。


「邪魔が入ったね。だがいいわ。全員纏めて眠らせて、ヒドラの餌にしてやるわ!」


 アーマニタが、催眠ガスを噴射しようとパラソルを構えた。

 しかし、いくらスイッチを押してもガスが出てこない。


 マノンが、背後から、アーマニタのヒザを蹴り飛ばした。


 ガクン、とアーマニタが体勢を崩す。


「なんでキノコガスが出てこない?」


 アーマニタが、パラソルの先を確認する。

 わずかだが、先端が氷に覆われていた。


「縛られている間、わたしが何もしていないと思った?」



 気づかれない程の冷気を発動させ、マノンはパラソルの噴射口だけ凍らせていたのだ。



「おのれ!」

「そうはいかないわよ!」


 パラソルが、エステルのブロードソードによって切り裂かれる。


 どういう技術か分からないが、リードとイヴォンが背景に紛れていた。

 解放したエルショフ理事長を連れ去る。


「冒険者だと? でもガキだ! やっちまえ!」


 ヤケを起こした冒険者たちが、武器を振り上げた。こちらへと向かってくる。


 鬼の形相となったエステルが、ランチャーにブロードソードを食わせた。


「あんたらに蘇生はナシよ! 浄焔セイクリッド・ブレイズ!」

「それはダメ!」


 マノンは、吹雪を発動させる。

 いくら怒りにまかせた攻撃だからと言って、友人を人殺しにはさせられない。


 エステルの放った火の鳥と、マノンの吹雪が合わさって、高温の水蒸気が発生した。

 ダメ押しで、セラフィマが鉄の扇で水蒸気を仰ぐ。


 蒸気が、冒険者たちの肌や呼吸器を容赦なく焼いた。


「ぎゃああああ!」


 威力を弱めるつもりが、さらに悪化する。

 大ヤケドを負った冒険者たちが、砦の外へと退散していく。


「やっちゃった……」

「よっしゃ! 結果オーライってやつ?」

 

 ネリーが、指を鳴らす。



 そのスキにリードたち二人が、エルショフ議長を連れて砦を脱出した。


 どさくさに紛れて、冒険者たちも逃げ出そうとする。


「あなた方は、絶対に逃がしません」

「やっちゃって、オデりん!」


 ネリーの作ったゴーレムが、岩を放り投げた。


 オデットは空中でキリモミをして、岩を砕く。

 粉々になった小石に磁力を載せる。


 弾丸と化した石つぶてが、冒険者たちに降り注ぐ。

 手足を打ち抜かれ、冒険者たちは身動きが取れなくなった。


「あとは、騎士団の仕事です。もっとも、リーダーはあのザマですが」


 オデットは、最後に残ったブレトンを睨む。


 全ての作戦をメチャクチャにされ、ブレトンは顔をしかめていた。


「やってくれるじゃないの、アンタたち!」


 もう一人、アーマニタもパラソルをへし折って怒り狂う。


「全員まとめてヒドラ穴に落ちな!」


 パラソルを捨てて、アーマニタは印を結んだ。


 アーマニタの周囲が光り出す。


「ヒドラ穴って?」

「あの魔族は、この砦の地下にある魔神結晶を取ろうとしていたようです。けれど、ヒドラに邪魔をされていました」


 オデットがそう教えてくれた。


 おそらく、不要になった人間をヒドラの巣に落とすか、「指示に従わなければヒドラにエサにする」とでも言って、協力者を脅していたのだろう。


 体長が一〇メートルもある大蛇が、地面を突き破って現れた。

 八本もの頭が、一斉にマノンたちを向く。


「アハハハハ! 腹が減っているところだろ? 女の肉を食って肥え太りな! その後、学校を襲ってみんな骨にしてやる」


 ヒドラを操っているアーマニタが、不気味に口角をつり上げる。


「エサになるのは、テメエだ!」


 ロープを手綱がわりにして、ヒドラを操縦している男がいた。


 担任だ。


「ぎゃははは! 死神様の登場だぜ!」

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