真犯人は? 前編

 マノンは、小屋らしき場所で目を覚ます。


 廃砦を改装した簡単な作りだ。


 学校を飛び出して、いつもの砦に向かおうとした。

 その道中で、セラフィマの父親が連れて行かれるのを目撃する。

 阻止しようとしたが、力及ばず自分も気を失ってしまったのだ。


 人数は一四人いる。冒険者の姿も。


 アーマニタが、中央に座ってワインの入ったグラスを傾けている。


 その隣には見覚えのある人物が。


「あなたは!? ブレトン先生」


 なんと、首魁は騎士団長のブレトンだった。

 アメーヌ冒険者学校の体育教師で、セラフィマの担任である。


「お目覚めか」


 マノンは飛びかかりかけた。

 しかし、縄で縛られていることを忘れ、つんのめってしまう。

 頬を床へ、したたかにうちつける。


「大丈夫かい?」


 隣で縛られているエルショフ理事長が、マノンに語りかけた。


 エルショフ理事長は、手足を縛られて翼に細工を施されている。

 やや疲労の色が見えた。が、ケガ一つしていないのが幸いか。

 とはいえ、完全な商売人である理事長に、戦闘能力はない。

 彼では、この場を制圧できないだろう。


「はい。なんとか。すいません。今すぐ助けます」

「いや、無駄なことはせんでいただきたい」

 

 ブレトンが、自身の剣で床を叩いた。


「騎士団長、どうしてこんなことを?」

「これは、祖父の仇だ。世界を救った我が先々代は、当時の王国によって処刑された! 必ず復讐してやる!」

「では、あなたは……?」

「ああ。ボクは、勇者フリアンの血を継ぐものだ」


 つまり、彼の祖父は担任……いや、担任の父親と共に世界を救ったというわけか。


「祖父である勇者フリアンは、力を持ちすぎた。戦いが終わった後も、勇者は国民から慕われていた。当時の国王よりもね」


 時の王は、ブレトンの祖父が国民の信頼を受けすぎたことにより、自分に取って代わられるのではと、恐れたのだ。

 処刑当時、国民たちも勇者を「国王に反旗を翻す逆賊」と、はやしたてていたという。


「もっとも、そんな国はアーマニタと共に滅ぼしたがね。王族も国民も、等しくアーマニタの毒に飲み込まれていった」

「どうしてそんな、むごたらしいことを?」

「眼の前で肉親がギロチンにかけけられる様を見れば、キミにも嫌でもわかるよ……」


 彼はアーマニタと組み、姓と身分を変えてアメーヌへ潜入した。

 次の標的である、ウスターシュを殺すために。


「あなたは騎士様でしょ? 世界の味方ではないのですか?」

「こんな世界など、守る価値などない。終わらない闘争。消えない偏見や恐怖。フリアンが生きていた頃と、何も変わらなかった。父は死ぬ覚悟で、この世界を守ったというのに!」


 ブレトンの言葉には、憎しみがこもっている。


「狙いは、女王陛下の命ですか?」

「あのような傀儡を排除したとて、首が入れ替わるだけ。この世界を変えるには、根本から正さねばならない。まずは、砂礫公のような矮小な魔王に依存している、この世界をな」

「担任は、王様を陰で操るような卑劣漢じゃない。むしろ、魔族と手を組んでいるあなたの方がよっぽど情けない」


 ブレトンは、好きなだけマノンに言わせた。

 マノンに怒りをぶつけるでもなく、暴力を振るってくるでもなく。


「ボクこそが、魔族を利用しているのだ。精霊がいれば、魔神結晶は浄化されてしまう。実験して確認したからな」

「実験? するとあなたが!」

「そうだ。世界樹を破壊し、精霊を弱らせるためだった。砂礫公などという、とんだ邪魔が入ったが」

「あの魔族はどうして、あなたに協力を?」


 いくら強い騎士だとはいえ、ブレトンは人間である。

 プライドを捨ててまで、魔族が人間と手を組むとは思えない。

 魔神の復活のためか?


「魔神結晶を取り込んで、自らが母体となって魔神を生み出すのだ。他の冒険者に力を与えながら、計画を練っていた」


 騎士団や冒険者の動きが鈍かったのは、これが原因か。

 複数の冒険者は、魔族に与していた。

 ブレトンが、情報をシャットアウトしていたのだろう。


「あなたのような弱虫に、冒険者は屈しない!」

「なんとでも言え。我々は目的を遂行するだけだ」


 他の冒険者も、ブレトンの意見にうなずいている。


「魔族に雇われて、冒険者と言えるの?」

「へん、どうせ世界は滅びるんだ。より強い組織に組みしたほうがいいってもんさ。テメエだって魔物なんかに勉強を教わっているじゃねえか。そんなテメエらに、オレたちのことが言えるか!」

「魔物にだって、教わることはある!」


 不自由ながら両足を動かして、マノンはその場にいた冒険者のスネを蹴った。


 冒険者がバランスを失い、転倒する。


「このアマ、ぶっ殺してやる!」


 目を血走らせながら、冒険者がナイフを取り出した。刃をマノンにちらつかせる。


 マノンは怯まない。下手に動けば殺されるだろう。

 だが、みすみす殺されたりはしない。


「やめな! 人質の意味がなくなる」


 アーマニタが、冒険者の手首をパラソルで叩いた。


 ナイフが床に転がっていく。


 マノンはナイフに視線が移った。

 どうにかして手元に。

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