ヒドラとの死闘! 後編

「痛みが一瞬で引きました! 何をしたんですか? 副担任は、回復系のジョブじゃないですよね?」

「ワタシの力をほんの少しですが分けて差し上げました。これで傷は癒えたかと」


 イヴォンに興味をなくしたかのように、オデットは指弾をヒドラに浴びせ続ける。


「ありがとうございます! でも、大丈夫なんですか? 戦闘能力に支障が出るのでは」

「あなたを治療した程度で衰えるほど、ヤワではありません」


 オデットの発言には、少しの強がりもない。


「それよりもリードさん、これを」

「おうさ。そらっ!」


 リードがオデットに指示され、イヴォンに手製の布を被せる。


 イヴォンたちの姿が見えなくなった。


「こいつは俺たちが見ておく。担任! 急いで上に上がるぜ!」

「頼む。ネリー、先へ進め!」


 ジャレスが告げると、ネリーは新たなゴーレムを作り上げた。再び道を作っていく。


「さてと」


 ジャレスは、ヒドラを睨む。


「エステル、ネリーたちを頼むぜ!」

「はあ? カッコつけてんじゃないわよ! アンタも急ぎなさいよ!」

「カッコなんかつけてねえ!」


 ジャレスは、エステルの背中をムリヤリ押す。


「ゴーレムは必要! イヴォンの知恵やリードの装備も、マノン救出の役に立つ。なにより、お前があいつの側にいねえでどうする!」


「それは、こっちのセリフなんだけど!?」


 エステルが、唇を噛みしめた。


「悔しいけど、あの子はあんたが大事みたい。でも、あたしの武器じゃこの洞窟まで壊してしまう。あんたに頼るしかないわ」


 上を見上げた後、エステルは再びジャレスを見る。


「だから、絶対に生きて上がってきなさいよね!」

「ヘン、オレ様を誰だと思ってやがる!」


 ジャレスが言うと、エステルはニッと笑って上へ。 


「担任、あれを!」


 スケルトンが、ヒドラにまたがっていた。

 多分、このガイコツは盗賊の頭だ。

 正確には、頭だったものである。彼がクビからぶら下げているのは……。


「魔神結晶だ!」


 おそらくヒドラは、魔神結晶のせいで凶暴化しているのだろう。

 とはいえ、知能のないヒドラでは、力をうまく押さえ込めない。本能のままに動いている。


「あの魔神結晶を止めれば、勝機はあるかと」


 血の色に光る首飾りに、オデットは照準を合わせた。


 だが、ジャレスはオデットの方を掴む。


「いや、お前さんは上に行ってやってくれ」

「お一人で相手をするおつもりですか?」

「ああ。こいつを上に連れて行く!」


 仕留めるには時間が掛かる。

 かといって上に上がっても、ヒドラにやられたら全員おしまいだ。


 ならば、後者に賭ける。


「では担任、活躍を期待します」


 上へと登っていくオデットを確認して、ジャレスはヒドラを睨んだ。


「さてと、待たせたな」


 スケルトンが、下にいるジャレスを見据えた気がした。


 ヒドラの首をすり抜け、一気にスケルトンへ距離を詰める。


 なにもヒドラを相手にする必要はないと分かれば、対処はしやすい。


 ヒドラの牙を避けつつ、背中によじ登る。

 暴れさせるため、胴体に傷を負わた。


 ヒドラは首は再生するが、支点である身体は再生しない。

 殺すなら胴体を狙う方がいいのだ。

 とはいえ、頑強なヨロイで覆われているため、強力な技を必要とする。


 エステルの攻撃がより精密でピンポイントであれば、有効だっただろう。


 だが、ジャレスも人のことが言えない。

 ジャレスの全力攻撃も、このダンジョンに被害を及ぼしてしまう。


 スケルトンが、バランスを崩す。


「邪魔するぜ、ガイコツヤロウ!」


 背中の上で、スケルトンと向き合った。


 スケルトンの首には、金色のネックレスがぶら下がっている。


 魔神結晶が、赤紫色の光を放つ。

 まるでジャレスを視認しているかのように。


「力を持つのに相応しくねえって認定されたか。で、肉体だけ食われたと。ギャハッ、ざまぁねえな!」


 ジャレスの挑発に反応したのか、スケルトンが円月刀を乱暴に振り回す。


「オホホ、しっかり狙えよヘタクソ!」


 スケルトンの攻撃を、ジャレスは適度な攻防ですり抜ける。


 とにかく、スケルトンをヒドラに集中させない。


「へっへーん! 魔神結晶もロクに活かせねえポンコツが!」


 ヒドラやスケルトンの攻撃をかわしつつ、ヒドラを穴へと誘導する。

 背中や首筋を銃で撃ち、ヒドラを苛立たせた。

 スケルトンと戦っているフリをして、ヒドラを操る。


 しかし、死角からヒドラの頭が、ジャレスの銃を奪う。

 銃が財宝室の端に落ちる。


 せっかく誘導していたのに、ジャレスだけが戻る羽目になってしまった。


 スケルトンが引き返してくる。

 作戦に気づいたのか、それともジャレスを押しつぶそうとしてか。


「おっと!」


 ヒドラの突進を、ジャレスはギリギリでかわした。


「こっちだこっち!」


 ジャレスはネリーの開けた穴を、出口目指して猛ダッシュする。


「オレ様を殺したいんだろ? ついて来いよ!」


 自分の尻を叩き、再びスケルトンを挑発した。


 怒り狂ったスケルトンが、ヒドラをけしかけて追撃してくる。


「どうしたどうした。オレはココだぜ、このノロマ!」


 足の速さなら負けない。ジャレスは一気に穴を駆け上がった。

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