砂礫公の真実 後編

「立場を利用してしまい、申し訳なく思っております」

「いいっていいって。ただ、オレ様はこの学校が浄化されればって思っていた。姿形丸ごと消えてなくなるとは思ってなかったぜ」

「そこまで砂礫公さまが、この学園に愛着を持っていらっしゃるとは思っていなくて」

「ウスターシュと勇者が建てた学校だからな」


 五〇年前、魔王を倒した者たち同士で出資し合い、この学園を設立した。

 冒険者たちを育成する。ギルドの補助要員も育てていけるような、学内組織を作り出す。

 そんなコンセプトで建てたのだ。


 しかし、長い年月を経て学園は平和ボケを起こしている。

 ジャレスたちの理念も、時代のせいで形骸化してしまった。

 それが、この腐敗を呼んだ。


「ですわね。お父様が建てた学校ですものね」

「てめえ、どこまで知っている?」

「我々の情報網なら、あなたが、『二代目』砂礫公だということくらいでしょうか」

 教室のドアを開けた先に、マノンがいた。


「担任、今の話、本当なの?」

「ああ。オレ様はBOWビヨンド・オブ・ワーストじゃねえ。ただのゴブリンだ」

「担任が、魔王じゃない……」


 ジャレスは、自分がBOWを引き継いだ経緯を話す。


「マノン、お前には話したよな? オレの手下の話を」

「不注意で部下が死んで、その子どもが今、担任の代わりに魔王を継いでるって」

「あのとき語った子どもは、オレ様自身なのさ」


 初代砂礫公となったゴブリンは、ジャレスの父親である。


 アーマニタと戦って見た、過去の記憶に魔神が出てきた。

 あのとき殺した人物は、ジャレスの父だったのである。


「当時、人間の仲間と共に、オヤジは魔神を倒した。オレ様は、横についていただけさ」


 しかし、父は魔神に精神に飲み込まれてしまう。

 自分の妻、つまりジャレスの母親含め、配下を皆殺しに。

 

 ジャレスも、父を止めるため銃を奪った。その際に、片腕をなくす。

 正気をなくした父を撃ち、ジャレスが砂礫公を継ぐ。


「それからの数年間、オレはゴブリン帝国を立て直していたってワケさ。配下は、二〇匹ぽっちしかいないけどな」

「そんな過去が」


 口を押さえ、セラフィマが後ずさった。


「幻滅しただろ、偉そうにしているが、オレ様は魔王でも何でもない。魔神を殺した英雄でもない! ただのゴブリンAさ」

「女王陛下と面識があったのは?」

「砂礫公を、死んだオヤジに代わって継いだ、って話しただけさ」


 父の過去の功績を称え、砂礫公を継いだジャレスを特別視している程度である。


「これで分かっただろ? オレ様には、何の権限もないんだよ。冒険者学校の腐敗も、学校閉鎖も止められない! オレ様にできることは何もねえんだよ!」


 感情的に話したあと、ジャレスは頭をかく。


「いつかは、話そうと思っていたんだけどな」

「学校は、どうなっちゃうの?」


 言葉から察するに、ジャレスを責めるわけではないらしい。

 けれども、マノンはさらに深刻な悩みを抱えているようだ。


「なくなるかも知れねえ」

「担任でも、どうにもならないの?」

「こればっかりはな」


 マノンが教室から飛び出してしまう。


「待てマノン!」


 ジャレスは後を追った。


 しかし、マノンの姿はない。


「街まで行ったか?」


 校門を出て、街へ向かう。


「うわっと!」


 エステルとぶつかりそうになる。エミールやピエレットもいた。


「お前どうしてココに?」

「あんたこそ何やってんのよ?」

「マノンが走ってどこかへ行っちまった!」

「もうバカ!」


 多くは語らずとも、エステルにはマノンに何があったのか察したらしい。


 急いでマノンを探すため、駆け出す。


「マノン、どこー?」


 ピエレットにウスターシュを呼んでもらい、クラス全員で探索に当たる。


 街へ出たかも知れない。心当たりのある場所を探る。


「どこいった、マノーン!」


 大声で叫ぶが、視界の悪い中で何も見えない。


 合流ポイントで、ウスターシュと落ち合う。


「ウスターシュ、いたか?」


 ジャレスが聞くと、ウスターシュは首を振った。


 マノンを探し回ったが、どこにもいない。


「家にも帰っていないようだ」

「あのヤロウ、どこ行きやがった?」


 マノンの行きそうな場所といえば、あの修行場かも知れない。 


「大変です、校長っ!」


 冒険者ギルドの職員が、学校の敷地内に入ってきた。


「何があった?」


 ウスターシュが、ギルドの職員に問いかける。


「エルショフ商会の馬車が、盗賊の襲撃を受けて連れ去られました!」

「冒険者はどうした?」

「どうも、一部が盗賊団とグルだったみたいで! 奴らは、山奥のギメル砦へ逃げました!」


 やはりだ。ギメル砦と言えば。


「マノンもそこに!」


 そういえば、ギメル砦の近くで、マノンは稽古をしていた。もしかすると。


 砦の近くにある丘へ、エステルと向かう。


「いねえ」


 ここも違ったのか?


「担任、これ!」


 エステルが、マノンの髪留めを発見した。

 ジャレスが渡したモノだ。


「担任。こんなものが冒険者ギルドの掲示板に」

 

 今度は、オデットが何かを見つけたようである。手には小さな紙が。


 ジャレスはオデットの手から、メモを取り上げた。


 

『二人は預かっている。返して欲しければ、これまで集めてきた魔神結晶を渡せ。砂礫公のものも含めて』



 小さなメモには、そう書かれている。


「知らない間に、この紙が貼られていたらしく」


 ジャレスはメモを握りつぶした。

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