魔族対不遜公
「貴様は一度、魔族と相打ちになっているだろう! 弱った身体をその東洋人に救ってもらったようだが」
「ええ、あなたをコテンパンにするくらいには」
赤き英雄の血を引く少女でさえ、全力で闘志を燃やさなければいけない相手なのである。
それなのに、オデットはまったく怯えた様子もない。
「嗤っていられるのも今のうちだ、グリフォンロード! 随分と妖艶な出で立ちになったようだが、人間となって弱ったのではないか? そんな身体で僕に勝てるとでも?」
「御託はいいからかかってきなさい。あなたがどれほどに無力であるか、ご自身でもお気づきでないでしょうから」
頭に血が上った魔族が、逃亡もせずオデットに立ち向かう。
「おい魔族の坊っちゃん。逃げねえのか? 今が逃げ帰る唯一のチャンスだぜ?」
ジャレスの嘲笑に対して、魔族も笑い返す。
「ハン! この学園の者を皆殺しにすれば済むこと! 死ねえ!」
魔族は手を交差して、濁流と化した魔力を放つ。
「オデット副担任、危ない!」
マノンがオデットを心配した。
「ご心配なく、マノン」
オデットは避けようともせず、魔族の攻撃を真正面から受け止めた。
傷一つ追っていない。自身の身体を確かめている。
「なるほど。魔力で防御していることもありますが、頑丈に作られています。これなら、多少無茶をしても平気でしょう」
「無傷だと? いくら魔王クラスの魔物だからと言って、魔族と互角とは思えぬ! こやつらだって、平和ボケして相当弱っているはずなのに!」
「我ら魔物から誕生した魔王と、あなたがたのようなヒラの魔族と一緒になさらないでください」
オデットが、単純なハイキックを繰り出す。
目にも留まらぬ速さで、蹴りは魔族のこめかみにヒットする。
「あが!」
何かが弾ける音がした。魔族の角が、根元から折れたのだ。
「魔神の加護を持たぬ魔族など、所詮はこんなものです」
「クソが。魔神結晶さえあれば、貴様なんぞに!」
頭部を割られ、魔族は虫の息となる。
この状態でまだ生きているとは、魔族はしぶとい。
「そんな石に依存しなければならないとは愚かな。ご自身で魔力を研鑽なさい」
「魔神結晶で生きながらえている貴様なんぞに言われたくない! 魔族に訓練を促すなど片腹痛いわ! 元々強大な力を誇る我々に、努力など!」
取り乱す魔族を憐れむように、オデットがため息をついた。
「もうよろしいですか、担任? 聞き出せることは全て聞き出しました」
「ああ。お好きなように」
オデットが右腕を正面に突き出す。指から無数の光弾を発射した。
「もう勝った気でいやがるとは! 生まれてきたことを後悔するがががががががが……」
無数の光弾を浴びて、魔族は蜂の巣となる。
原形すら留めず、魔族は息絶えた。
「マノンを侮辱した罰です。安らかに眠らせなど、してやりません」
フンと鼻を鳴らし、オデットは腕を降ろす。
「魔法の弾丸が、あれだけの硬度を持って敵を貫くなんて」
オデットの技を見たマノンは、自分なりに推理をしている。
だが、正解には至らない。
「死体の側まで行けば、オデットの技が何か分かるぜ」
ジャレスはヒントを与えた。
マノンはジャレスに従い、息絶えた魔族の側まで行く。足下に落ちている小さなつぶてを拾った。
「小石を武器にするの?」
「オデットの能力は、いわば磁力。石ころを吸い込んで、一気に飛散させる。それなら、純粋な魔力を撃ち出すよりパワーは少なくて済む」
磁力を使えば、雷だって起こすことができる。
オデットは雷などの電流自体を魔力として使っていたのではない。
彼女自身が電撃を帯び、物体を動かしていた。
「わたしとは、相性が悪かった?」
「というか、マノンが強くなっていくのに対して、オデットがついて行けてなかったのさ」
「ただの人間であるわたしが、魔王すら凌ぐとは思えない」
「そうか? オレ様はそうは思わんがね」
らしくない口調で、ジャレスは言葉を投げる。
「お前さんは成長しているよ。自覚していないだけでよ」
その真価は、これから発揮されていくだろう。
「もっとも、こいつは生きながらえようとか、お前さんの魔力を全部いただくなんて、そんなクソみたいな理由で、お前さんと融合していたわけじゃない」
「私が何を考えていようと、私の勝手です」
ジャレスの言葉に、オデットが過剰反応した。
「見捨てられなかったんだよな。何か恩を返せないかと考え、協力しようとした。だがマノンは自分の予想に反し、強くなっていく。自分の出番はもうない。だが、居心地が良すぎて出られなかった。そんなところだろう」
「憶測で語らないでいただけますか?」
オデットの周辺にあった小石が、フワリと宙に浮く。
「お、やるか?」
ジャレスも、本気モードになった不遜公とは戦ったことがない。ここはひとつ手合わせを。
「よしなさいよ二人とも」
しかしエステルが割って入り、勝負は流れた。
「オデット先生ちゃん強い! 自画自賛しているみたいだけど」
大はしゃぎで、ネリーが何度も飛び上がる。今までの話も聞いていないだろう。
「当然です。副担任ですから」
声色からして、オデットもまんざらでもなさそうだ。
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