担任VSゴーレム!
「やっちゃいな、オイラのゴーレムちゃん!」
足を肩幅より大きく開き、ネリーはペンを持った手を振り回した。
「フーワッフー、フーワッフーッ!」
がに股で両腕を交互に右左と天を差す、不思議な踊りを始める。
ダンスに呼応しているのか、ゴーレムがユラリと動き出した。大きく拳を振り下ろしてくる。
「巻き込まれるぞ!」
生徒たちが、一斉に逃げ出した。
もう、戦闘訓練どころではない。
ゴーレムが、担任のいた場所を叩き潰す。
担任は空に逃げていた。
「ギャハハ! いいねいいね。やっぱこうでないと。ネリー、お前が一番見込みがある!」
「当然っしょ! フーワッフーッ!」
空中で無防備になっている担任へ、ゴーレムが追い打ちをかける。再度パンチ。
「ほほう、土魔法か。それとパーカーに隠れていた角、お前さんノーム族だな」
担任も本気なのか、銃でゴーレムの拳を打ち砕いた。
「そんなんでうちのゴーレムちゃんは止められないよ!」
しかし、石の塊であるゴーレムは、すぐに再生する。担任に裏拳を食らわした。
なすすべなく、担任は打ち落とされる。
「勝った! これで晴れて冒険者っしょ! やっぱ『まだパーティで消耗してるの?』って気分も感じなくて済むっしょ。あれ?」
拳を振り上げて、ネリーは勝利を確信した。だが、すぐに動きを止める。
ゴーレムの胸部から、担任が飛び出してきた。身体を丸めながらクルクルと回転し、着地する。
「こいつが、ゴーレムの触媒か」
担任が持っていたのは、「人形研究部」のポスターである。
ネリーは、数少ない人形研究部の部長だ。部員は彼女一人しかいない。
「ありゃー、こりゃ負けたっしょ」
メガネを直しながら、ネリーは降参する。
「ネリー、あんた、勝手にポスターに魔法を施したの?」
怒り心頭の様子で、エステルはネリーに詰め寄った。
「はあ、やっちゃだめって法律ねえっしょ?」
「なくたって普通はやらないわよ! あんたには常識ってものがないの!?」
「ないよ? そんなもんが怖くて冒険者なんてできっかっての」
「あんた、マジないわ」と、エステルが呆れかえる。
「そうか? 最高じゃねえか。どうやるんだ?」
反対に、担任はネリーの技術に興味津々だ。
「それはねー、ひとまず『文化部を作りたいんでー許可くださーい。学級活動チョロッと手伝いますよー』って先生の信頼を勝ち取ったらもうラクショー」
ネリーがネコを被り、へりくだる振りをする。
「へーえ、プライドが許さねーだろうに、すげえな!」
「ただの紙切れだから、調べもしねーでやんの」
「たっはー、こりゃ参ったね。目を通してたはずなのに、オレ様でも分からなかったぜ! すげーなお前! 先生の負け! 降参だ!」
担任は、手で目を隠した。ネリーの魔導触媒を作成するセンスを、べた褒めである。
マノンはちょっと、面白くない気分になった。
「でっしょー。褒めてくれてありがと。また遊んでねーっ!」
手を振って、ネリーが退場する。
マノンたちを横切る際に、「嘘でも嬉しいよっ」とつぶやいて。
「おう、じゃーな!」と、担任も手を振った。
残るは、マノンとエステルだけ。
と思っていたら、珍客が。
「あらあ? ゴブリン相手に随分と苦戦していらっしゃるじゃない?」
隣のグラウンドで騎乗の訓練をしていたセラフィマが、馬に乗って乱入してきた。
「こらキミ、ウチのクラスだろ。授業中だぞ!」
赤いジャージを着たロングヘアの男性教師が、セラフィマを止めに入る。
「おや、あんたはどっかで」
担任が、ロングヘア教師の顔を覗き込む。
「ああ、セラフィマくんの担任である、ブレトンです。体育を教えています」
「ギャハッ。騎士団長か! こりゃどうもご親切に! よろしくな」
「ええ、こちらこそ」
二人は互いに握手をした。
「でよぉ。騎士団長様が、どうして教育をなさっているので?」
「初心に帰るためです」
あまり腕の立つ者たちで集まっていると、自分は強いと思い込んで増長してしまう。
若手に指導することにより、自身のおごりを消し去るのだとか。
「騎士業務はよろしいのですかな?」
「王を守る屈強の騎士は、私だけじゃないので」
「なにも団長自らがガキのお守りなんて」
「あなたこそ……ベテラン冒険者じゃありませんか」
不自然に言いよどみつつも、ブレトン先生は話し続けた。
「だな。ベテランが若手の指導をするのは、どこも同じってわけだな?」
「はい。後進の育成は大事ですから」
大げさに笑い合い、話をセラフィマに戻す。
「セラフィマくん、ダメじゃないか。勝手に授業を抜け出しては!」
「ハイレベル冒険者の実力を低スペの落ちこぼれに見せるのも、授業の一環ですわ」
注意をする教師を制止して、セラフィマが馬を下りる。
「勝手にしたまえ。では先生、お灸をすえてやってください」
「あいよー」
教員が引き下がった。セラフィマの親は、この学園に出資している。あまり大きく出られない。
ウスターシュが学園長を担当し、学園内のパワーバランスは保たれている。
エステルに食ってかかるのは、「資金を要求してくる側の分際で」という苛立ちがあるのかも。
「いかがでしょう、わたくしがお相手致しますわ」
鉄扇を豊満な胸から取り出して、セラフィマが担任を挑発した。
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