担任、本領発揮
「手加減しなくていいぜ。全力全開!」
担任が、手首を指でバシバシ叩く。
制服に付いているカフスを操作しろとジェスチャーをしているのだ。
なんと、担任は「制服を解けと」合図を送っていた。
「後悔してもしらねえぞ、おっさん!」
リードが、制服のカフスに手をかける。
制服が、レザーアーマーへと「戻った」。
冒険者学校では、生徒たちの鎧や武器などの私物を制服に「変換」している。
魔法石でできたカフスを操作すれば、元の武具防具へと戻るのだ。
こうして、自身の潜在能力を魔法石に押さえ込み、力をセーブする訓練も、カリキュラムに含まれている。
「アメーヌ冒険者学校トップクラスであるオレの剣さばきで、その首をはねてやるぜ!」
担任の首めがけて、リードが三日月刀を横に薙ぐ。
腕力ならオークにすら負けないリードの剣が、直角に打ち上げられた。担任が、魔法銃で振り払ったのである。
「冗談だろ、銃身でカウンターなんてよ!」
自信満々だったリードの表情に、焦りの色が浮かぶ。
魔法を用いる際に利用する触媒は、杖が主力だ。
攻撃、治癒、補助、探索とバランスがいい。
反面、武器を触媒にする場合は、魔法を武器としてのみ扱う。その代わり、威力は杖より高い。
魔法銃は射撃に特化しているだけに、物理攻撃に対してはもろいはずだ。
担任の装備は、射撃だけでなく打撃武器としても使えるのだろう。それだけ高い技術が、あの中には用いられているようだ。
リードだって、決して弱くない。太刀筋は正確で、並のモンスターならたやすく斬り捨てるだろう。
単に、担任の動きが速すぎるのだ。
いくらリードが攻撃しても、担任に一太刀も浴びせられない。
唖然とするリードのみぞおちに、担任の銃口が突き刺さった。
引き金に手をかけていない。
打撃である。
「ばかな、オレが負ける?」
鉄すら通さないワイバーンの鱗で作られた鎧が、容易く破壊された。
便意をガマンするような顔になって、リードは退場することに。
「んだよ情けねえな」
クラスメイトの一人が、リードを罵った。
「無理無理! 早すぎだってのあのヤロウ!」
腹を押さえながら、リードは悔しがる。
「何モンなんだ、あいつ」
座り込んで、リードは担任を睨む。
確かに、担任の強さは、自分たちの知るゴブリンとは格が違う。
リードも、手合わせした相手の力量が分からないほど、バカではない。きっと担任の強さを体感したはずだ。
マノンは少しだけ、担任の強さを誇らく思った。
「オラオラ、ドンドンかかってきやがれ!」
手を叩きながら、担任が生徒を挑発した。
「ふざけやがって!」
三人がかりで、生徒たちが襲いかかる。斧使いのドワーフ女子がリーダーだ。
間にエミールが弓を構え、魔術師の少女が後衛で二人に筋力増強の術式を送り込む。
「油断しないでエミール!」
エステルの呼びかけに、エミールはウインクで応えた。すぐに担任に向き直る。
「アタイの斧を、リードの剣と同じに思わないことね!」
ドワーフの少女が、両手持ちの斧を片手で軽々と操った。
男子にも劣らない腕力・筋力特化はドワーフの初期能力である。加えて補助魔法だ。どれだけの力量か。
結果は分からなかった。
担任が少女の懐に飛び込んで、アゴを蹴り上げてしまったからだ。
「当たらなきゃ意味がねえ」
アゴを砕かれた少女が、あさっての方角を見つめながら夢の中へ。
いつの間にか、エミールが矢を放っていた。
だが担任は冷静に、魔法銃で矢を撃ち落とす。
「おい、そこのパーカー!」
なぜか、担任がドワーフ少女の後方にいる、パーカーを着た少女に声をかけた。
「補助魔法なんてヤワな魔法なんて必要ねえ。お前さんの全力を使いな!」
挑発を受けると、魔術師の少女はニッと笑う。パチンと、指を鳴らした。
学校がグラグラと動き出す。なんと、壁の一部がひとりでに蠢き出した。
レンガの影が人の形に剥がれる。
教室の壁に、ストーンゴーレムが潜んでいた。
リーダー格のドワーフ女子生徒が起き上がる。
「ネリー、そのゴーレムを使ってアタイをカバーしな! もう一度アタイの斧をこのクソ教師に――」
言いかけて、女ドワーフの意識が吹っ飛んだ。
ゴーレムのビンタによって。
女ドワーフは地面でバウンドし、再び夢の世界へ。
「うっるっさいなぁ。クソはテメエだろーが。中途半端なドワーフのくせして粋がって命令してんじゃねーよ」
ネリーと呼ばれた少女が、パーカーのフードを脱いだ。
「オイラは『
丸メガネの少女が姿を現す。
桃色の髪、額に二本の角を生やした美人だ。
彼女の素顔など、誰も見たことがなかった。
「いやー、アタイ学校なんてバカの行くところっしょって思ってた。前任者の『はい三人組つくってー』なんて拘束魔法のせいで、どれだけオイラが退屈していたか。人と合わせるのって面倒だっつーの! 一人で研究する方が有意義!」
前担任の計らいを、ネリーは束縛魔法呼ばわりである。
「その点、アンタは面白そう!」
ネリーは色の違う小型ペンを六本、両手の指に挟んだ。
魔法石を使った、お箸サイズの杖である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます