⑤ 彩香の過去

「彩香ちゃん、かわいいねぇ。きっと将来有望なんじゃない?」

「そうだな、でもこの子にはやらせたい事をさせてあげよう。」

世界的にも有名な企業の社長令嬢であった私。小さい頃から英才教育に加え、女優としての演技指導もされてきた。買いたいものも何でも手に入れられた。

でも、そんな生活が怖かった。苦しかった。



「やだ!おしばいしたくない!おもちゃであそぶ!」

「ダメよ!将来立派な女優になってもらわないといけないの!」

幼稚園児の頃はお稽古の時間の前にいつも駄々をこねた。お母さんだっていい顔はしないし、無理矢理連れて行かされていた。

お芝居なんかよりも自分の好きな玩具で遊んで過ごしたかったのに、全て潰されていた。

娯楽系のものは全て禁止されていた。テレビも、スマホも。高校生となった今では安全の為に仕方なく渡されたって感じで、持ち物は全てお母さんに管理されていた。

お父さんがたまに裏でお金を渡してくれたりしたおかげで、少しはやりたいことができた。

こんなお母さんのせいで話も噛み合わないから友達と呼べる人は誰1人としていなかった。


「彩香ちゃん、お金あるんでしょ?少しくらい貸してよ〜」

「い、嫌です!」

お母さんは特に顔が広かった。その為に娘の私を執拗に追いかけ回し、お金をせびってくるダメ男も現れた。正直言ってすごい怖かった。お母さんにもこの一連を話したけれど

「いい男じゃないの?付き合いなよ」

こう言って取り合ってくれない。きっと感覚がどこかしらで食い違っているのだろう。

お父さんは常に仕事が舞い込んでくる為、このような件を相談する時間がなかった。



杜撰なお母さんの対応のせいでストーカーまで現れてしまった。

私は新宿駅近くのファミレスでバイトをしていたのだが、そこで待ち伏せされた事だってあった。

「彩香ちゃんだっけ?いい身体しているじゃん」

「なんなんですか、来ないでくださいよ。…てか何で私の名前を。」

「知らないの?君、SNSですごい拡散されてるよ?」

そう言って見せられたのは私の写真とともに個人情報まで載せられたモノ。

「知りませんよ、それ私じゃありません!」

「そんなしらばっくれなくても〜、君の定期区間もバレてるんだよ?池袋駅から三鷹駅でしょ?」

「本当にやめてください!なんで通学の区間まで知っているんですか!」

「さあ?これ以上ネット上でバラされたくないならあんまり抵抗しない方がいいよ?」


このままではまずいと思った私は我を忘れて叫んだ。

「警察呼びますよ!」

しかしこの声は届かなかった。

「ったく抵抗だけは一丁前だな…覚えとけよ」

ここからの私の記憶はない。目が覚めたら日が登っていた。知らない人間の体液塗れになっていた身体を見て、絶望を覚えた。


個人情報投稿の犯人はお母さんと同級生だった。今まで駄々をこねて迷惑をかけてきたしっぺ返しという名目で行ったとお父さんを介して聞いた。

そんな理由で私のハジメテを知らない人に奪われるなんて、こんな家に生まれた事を後悔した。


それ以降両親は離婚し、私はお父さんと2人で暮らしている。相変わらず忙しそうだけど、私との時間を取ってくれようとしている優しい親だ。

しかし私はこの一連の出来事がトラウマとなってしまい、友人というモノを作りたくなくなってしまった。境界線もわからなくなってしまった。

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青い瞳 ゆうみ @Yumi_3058F

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