④そこでなんですけれど…
「ほらほら、くらえ〜」
「や、やめてくださいよ!本当に恥ずかしいです…」
三鷹駅を出た後も私は彩香を少しながらもいじり続けた。相変わらずの反応を見せる辺り、彼女もまだまだ子どもなんだなと感じていたりする。
しかし駅から出て数十分、彼女はそんな反応を見せる事もなく冷淡な表情を見せ始めた。表情が濃くなるに連れて足の速さも上がる。
「ほら先輩、ここですよ。」
そう言って彼女は足を止めた。そこには身の丈には合わないほどの建物。その前できょとんとしている私を放っておいて、スタスタと店内へと進んでいく。
「ちょっと、待って…」
とてもじゃないが普通のOLが来るようなカフェではない、本当のセレブ様が立ち入るような雰囲気が店を埋め尽くした。社長、官僚、医者。人並みの努力ではなれないような職を手にしている人が来る店のようだ。
「私、大手会社の社長の娘なんです。ここ、行きつけのカフェなんですよ。どうしても使う方々の年齢層が高いので浮いてしまいますが。」私の耳元でそっと囁いた。確かに辺りを見渡すと、彼女のように若い人よりも、老後を迎えた人たちの方が席を埋め尽くしていた。
しかしそれを聞いたところで私の中で整理がつくわけでもなかった。
「オーナー、2人で。」
まるで何事もないかのように話は進んでいった。気づいた頃には私は彩香と向かい合わせになる形で座っていた。手元にはコーヒーが置いてあった、恐らく彼女が頼んだものだろう。
「先輩、私が何で先輩を三鷹駅に呼んでここに連れてきたか分かりますか?」
そんなの知るはずがない。私は小刻みに首を左右へと振る。
「そうですか」
重い空気が私達の周りを漂う。
彼女は少ししょんぼりした顔をしながらも、その青く透き通った目で私の事を見つめていた。その表情からは何かがあるように感じ取れ、私はそれについて言及しようとしたが
「そこでなんですけど…」
彩香の口が少しずつ動きだした。私は周りの音に負けそうなその声を聞き取るのに必死であった。そこから聞き取れたのは
「私と友達になってくれませんか」
この一言であった。私の頭の中で疑問と驚きが生まれた。以前東京駅で彼女を初めて見かけた時、周りには多くの同校の生徒がいたはず。さぞかし学校でも友達はいるだろうと思い込んでいたが、それは私の的外れな勘違いだった。どうやら彩香の視点では、あの生徒らは友達という関係ではないらしい。あの美貌を利用して好き勝手やっている、ただの迷惑な人達だそうだ。本人は1人で平穏な学生生活を送りたかったそうだが、そうもいかなかったようだ。
「友達になるのはいいけど、私達まだ友達じゃなかったの?」
思わず本音が出てしまった。気づいた頃には彼女は私から目を逸らすようにつぶやく。
「その…友達って何が基準になるのかなってわからなくて…」
「そんなの、彩香ちゃんが仲良いなって思ったら友達なんだよ?」
この一言が彼女の心に刺さるとは私には検討も付かなかった。
「実は…」
彼女は重い口を開きながら自分の過去を話し始めた。
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