第4話 竹魔法

 バンブーエルフの里で暮らし始めて一か月が経った。俺は外世界の知識と鑑定スキルを活かして里の助言役として働いている。バンブーエルフは実直で素直だ。ゆえにこれまでは町の商人と不平等な交渉をしてきたことが分かってきた。月に一度、ふもとの街へ通う行商エルフにレクチャーをして送り出した。大量の高級無洗米を持ち込まれた街の商人は面食らうだろうな、俺の含み笑いを見て、カグヤもつられて笑った。


 カグヤからはバンブー魔法の基礎を学んでいる。体質的なものもあり、竹魔法を活用できるのはバンブーエルフのみだが、その仕組みを理解しているかどうかで、里での暮らしやすさは雲泥の差となる。


 竹魔法は、バンブーの特性を伸ばす魔術体系だ。

 基本となるのは【成長】であり、地中に遍在するバンブー因子に呼びかけて任意の焦点に竹を育成する魔法である。

 次いで【強化】がある。竹のしなやかさを維持したまま強化する。強化された竹を武器化したならばそれはダイアモンドの鞭の如き威力を持つ。

 重要なのが竹の加工に使用する【切断】だ。竹は筋目以外の切断に強い耐性を持つ。その筋目に対して垂直に切断を行い様々な形で加工をする。精ヌカ所は、竹の歯車を組み合わせた高度な技術で作成されていた。


 俺がアイデアを提案するとカグヤが竹を操ってモデルを組み上げる。そんな中でバンブートンボを改良した足踏みで浮遊できる足踏み飛行機械の試作品も完成した。しかし、このような道具が何の役に立つだろうか。我に返った俺たちは、いまや空になったヌカじゃないハウスに試作品を放り込んだ。


 そして、しばらくすると行商エルフが三人の冒険者を連れて街から戻ってきた。それは変わり果てた姿のグレイル一行だった。


「エッセル、生きていたのか……」


 剣を杖にしてようやく立っているグレイルが口を開く。


「アタシたちは親切な行商エルフさんに拾われてこの里へ……」


 息も絶え絶えにミリムが経緯を説明する。


「なんにせよ、目的を果たせて……よかった」


 ガラハルドが末期の言葉を言い残して崩れ落ちる。


 警戒していたバンブーエルフたちも、彼らが俺の知り合いであることが分かると警戒を解いた。里長とカグヤも村の入り口にやってきて三人を出迎える。


「おぬしらの話は聞いておる。わしらを説得しようとしても無駄じゃ。もう十分に楽しんだじゃろう。里で休養を取ったら故郷へ帰してやる」


 その言葉を聞くと、顔を伏せたままのグレイルの気配が変わった。


「なんだ、


 そして地面につきたてた刀を一閃し、オキナを逆袈裟に切り上げる。


「グワーッ!?」


 切り付けられたたらを踏む里長。駆け寄ろうとするカグヤを羽交い絞めにするガラハルド。そして、ミリムは魔力を杖に集中する。


 乱れた長髪をかきあげたグレイルは表情を一変させる。


「説得は失敗。じゃあ、計画通り、バンブーエルフを皆殺しにして、一人だけ連れ帰るぞ」

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