第3話 ヌカハウスの賢者


 俺は里長を伴いヌカハウスを訪れる。やはり予想した通り、ヌカハウスのわきにはが併設されていた。


「里長、このヌカじゃない部分はどうしているのですか?」

「どうって……たまったら適当に投げ捨てたり稲畑に捨てたりしておるよ」


 俺はヌカじゃないハウスから升に美しく輝く白い粒々の穀物を救い取って、オキナに説明をした。


「これはと言って、町ではこれを主食としています」

「ほっほっほ、バカな、そんな灰汁も取れないようなものを」

「いままで捨て来た、ヌカじゃない方、これを私に頂けませんか」

「それは良いが、何に使うのかね?」

「2時間待ってください、美味しいものを食わせてあげますよ」


 俺は白米を背嚢に詰め込むと部屋へ戻った。ちょうど居合わせたカグヤに指示をして竹魔法で加工した竹筒を数本用意してもらい、そこにヌカじゃないハウスから持ち帰った白米を詰め込み水を注ぐ。


 魔法によってヌカを丁寧に落とされた結果、ヌカじゃないハウスの白米はと呼ばれる高レアリティ食材に近い状態になっていたのも幸運だった。


 カグヤからタケノコを数本分けてもらい竹筒に投入していく。

 竹筒を焚火の周囲に並べ、強火の遠火で焦がさないように過熱していく。バンブーエルフの里に生える竹は素晴らしい品質で熱をよく伝えながら、焦げることがない理想的な調理器具だった。


「お兄ちゃん、これはなにやってるの?」


 子供エルフが集まってくる。


「いまからうまいものを食わせてやるよ」

「なになに?」

「これはヌカじゃないハウスから手に入れた」

「えーーーヌカじゃないやつ~?」

「あんなの食うやつはいないよ、兄ちゃん」

「まあまあ、細工は流々仕上げを御覧じろ、さ」


 料理完了。


 俺は集会場前の広場で炊き上がった「竹筒飯」をエルフたちにふるまっていた。


「さぁ、どうぞ」


 俺が促しても、なかなか手に付けず顔をしかめるオキナ。

 エルフの里の住民も心配そうにその姿を見守っている。


「じゃあ、私が!!」


 その様子を見かねたカグヤが竹筒に竹スプーンを突っ込んで竹筒飯を頬張る。


「……」

「……」

「……」

「美味しいですわ~~」


 カグヤが破顔した。


「ワ、ワシも」


 その様子を見たオキナが、そして、その他のバンブーエルフたちが竹筒飯を食らい始めた。


「うまい!」

「ヌカじゃないところに竹のうまみが移っている!」

「ヌカじゃないところにこんな使い方があったとは~」

「ふむ、野蛮なやつらだと思っていたが、意外と知恵が回るようじゃの」

「こうやって食器まで食べられるなんて、バンブーエルフの気持ちをよくわかっていらっしゃいますわ~」


 カグヤは、俺の方を見てニコリと笑うと、バリバリと竹筒とスプーンを食らい始めた。


「たけのことごはんの組み合わせ、まるで、お主とカグヤのようだの」


「いやだわ、おじいさまってば~~」


「わっはっは」「ほほほ」


 バンブーエルフの里は笑い声と共にバリバリムシャムシャという咀嚼音に包まれた。俺が焚火から離れて里の喧騒を眺めていると、横にカグヤがやってきた。


「エッセル様は、さすがですわ」

「エッセルでいいよ」


 カグヤはすらりと伸びた姿勢をぐにゃぐにゃとさせながらもじもじしている。

「エッセル」

「なんだい」

「私、人間ヒューマンが恐ろしかったですの。怖くて乱暴で……でもエッセルは優しくて賢くて……」

「照れるな」

「つまり、怪我が癒えるまでと言わず、ずっとここに居てほしい」


 バンブーエルフの性格は竹を割ったように素直だ。

 カグヤの申し出を俺が断ることができるはずもなく、里長の後押しもあって俺たちは婚約をした。年の差は120歳だが、俺とカグヤが並べば見た目の年齢はそれほど変わらない。バンブーエルフは早く育ち、若い季節が長いことで知られている。


 こうしてバンブーエルフからの信頼を勝ち取った俺は里に受け入れられることになった。

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