第2話 カグヤ
目を覚ますとそこは
「俺は、助かったのか?」
ひとりごち、上半身を起こして周囲を見回す。室内は8畳ほどの広さがある土間で、高い天井を編み込んだ竹が覆っている。ベッドの周囲には竹製のスツールやテーブルが見える。特徴的なのはドアの高さだ。通常の家屋では1.8メートルほどのドア高が、この部屋では2.5メートルほどあるように見える。俺がいぶかしんでいると、ドアが開き一人の少女が姿を現した。
「あら、起きられましたか?」
ドア高より少し低い、すらりと伸びた上背と細身の体、しなやかに伸びた姿勢は青竹の如し、腰まで垂れた黒髪は毛先で束ねられ、淡竹の穂先のような白い肌とのコントラストを際立たせている。切れ長の翠瞳を彩るまつげは笹の葉のように揺れている。
「あ、はい」
彼女の美しさに見とれていた俺は、なんとも間の抜けた返事をしてしまった。
「大きな怪我がなくてなによりですわ」
彼女は、眼を細ませながら竹製のコップに冷たい熊笹茶を注いで俺に渡すとスツールに腰かけた。
「私は里長の孫娘、カグヤと申します」
カグヤの話によると、崖から墜落した俺は彼女の竹魔法によって救出されたらしい。頭部や背中を強く打ってはいるが命に別状はない。擦過傷は笹の葉によって治療されている。なんでも止血効果があるのだという。
「私がお貼りしたのですわ」
誇らしげに胸を張るカグヤに礼を言うと、彼女は背筋をグニャグニャにしてくすぐったそうに笑う。カグヤは俺より背が高いが少女のような瑞々しさがあり、言葉を交わすごとに俺はカグヤに魅かれていった。
どうやら俺は、探し認めていたバンブーエルフの里にたどり着いていたらしい。だが、気がかりな点があった。それは、バンブーエルフを皆殺しにする勇者一行が近づいているということだ。カグヤに礼を述べると俺は里長のところへ案内をしてもらった。
「客人、怪我は癒えましたかな?」
バンブーエルフの里の集会場、居丈高な姿勢で里長は俺を見下ろした。俺は里長を見上げながらその威圧感に圧倒されていた。その視線には人間とは容易に相容れない光がある。なにより、その身長と節々の厚みが圧倒的であった。人間としては平均的な身長の俺が、バンブースツールに腰かけたままの里長を見上げている。膝の上で組まれた指は太く、その関節の節々の強張りは精力に満ちた一本の青竹のようだ。
「実は、俺は、いや俺たちは、この里を探しに来たのです」
俺は助けてもらった礼をしたかった。この里やカグヤが殺される未来だけは防ぎたい。俺は里長に七王国の現状と勇者グレイルの脅威について率直に語った。彼らに協力しない限り、この里は焼かれる、と。
だが、里長とカグヤの反応は予想していたものとは異なっていた。
「フン、客人よ、心配には及ばぬ」
「そうですわ、エッセル様」
「この村は、竹林と
「それに、たどり着いたとしても、ウフフフ」
「ホッホッホ」
まるで緊張感のない二人に俺は緊張感を削がれた。
それと同時に腹を鳴らすとカグヤが思い出したかのように俺に提案をした。
ごはんにしましょう、と。
集会場の出入り口にはバンブーエルフたちが集まっていた。彼らは珍しい
それにしても、バンブーエルフは背が高い。子供たちの身長は人間と変わらないのだが、一定の年齢を超えるとグンと成長するようだ。成人の身長は平均して2メートル強。室内のつくりやドア高も納得のサイズである。
食事は、たけのこ(柔らかい竹の新芽)のステーキやスープが出た。成人したバンブーエルフは青竹を常食するが、さすがに人間に青竹は噛み切れないだろうという計らいである。
ふっくらと炊かれたたけのこは実に美味かった。自然の甘味があり、深みのある旨味が舌をくすぐる。
カグヤに料理のコツを聞くと「ヌカと一緒に煮て、アクを抜くのですわ」と教えてくれた。俺は鑑定スキルを使って、たけのこのスープにフォーカスをする。そして、求めていた情報を発見した。
【ヌカ:玄米を精白した際に余った部分】
「カグヤさん」
「カグヤでいいですわ」
「カグヤ」
「はいっ」
だめだ、俺はカグヤの竹を割ったような素直さとその笑顔を見ると骨抜きになってしまう。
「えっと」
「はいっ」
「この村に、ヌカハウスってある?」
「はい、村はずれの精ヌカ所にございますわ」
「じゃあ、ヌカじゃない部分ってどうなってる?」
「え? 考えたこともございませんわ」
予想通りだ。
「カグヤ、里長に伝えてくれ」
「歓待のお礼をしたいと」
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