第15話 ナンバーワンの憂鬱③

社長と話してから数週間。中傷の書き込みは続いていた。


気にしといてと言われたものの何をして良いかわからないので、とりあえず移動中にスマホを触っていたキャストがいたら、正確な時間を覚えておく、キャストの入れ込みとキャッチの時間をしっかりつけることを意識してみた。


これが功を奏したのか、何人かのキャストは完全に容疑者から除外できた。マナさん・すずめさんもそれに入る。この2人は書き込みがあった時間に乗せていたが、全くスマホを触っていない。


そもそもすずめさんは、他のキャストに興味がないしマナさんはまなつさんとプライベートでも仲が良い。


社長に伝えると、

「やっぱり私の予想通りだったみたいね。」

と返答が返ってきた。

他の店長達も同じようにチェックしていたらしく、残りは二人らしい。一人は何かの拍子にその掲示板の画面を開いていたのが見えたらしいので、ほぼほぼ決まりだろう。



ただ、現状では状況証拠だけなので、どうしようもない。問い詰めても当然シラを切られて終わりだ。


あとは、社長の判断だが・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それからしばらくして、件の投稿はぴたっとやんだ。そして例の容疑者二人も店をやめた。


気になって、シンデレラの池永店長に聞いてみた。


「あー、あれね。今後店やキャストに不利益になるような書き込みを見かけたら開示請求するって通達を流したんだよ。実際できるかどうかわからないけど、効果はあったみたいだね。」


そういうことか。まあ、証拠を握れない以上はこれくらいしか方法はないよな・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

で、被害者のまなつさんはというと、キャストに戻ったが、ドライバーを付けずに

自分で移動することにしたそうだ。駐車場がないビジネスホテルや自宅の場合だけ送迎してもらうらしい。



ある日のこと、自宅のお客さんの帰りにまなつさんを乗せることがあった。


「この前はありがとう店長達や羽根田さんが動いてくれたおかげで、もうしばらく続けれそう。」

「俺は殆ど何もしてないですよ。でも怖いですね。別に誰かに迷惑をかけたわけでもないのに、誹謗中傷されるってかなり精神的にやられるでしょうから」


「色んな人がいるからねー。このお店は平和な方かも。もっとギスギスしてるお店もあるし。」


そう話すまなつさんの顔は以前の明るさが戻った気がする。


程なくして事務所に着く。まなつさんは今日は終わりだ。


振り向いて後部座席にいるまなつさんに精算したお金を渡す。受け取ってまなつさんはにっこり微笑む。


その瞬間唇に柔らかい感触。

頭は真っ白だ・・・。


「本当はもうちょっとちゃんとお礼色々したいけど、ばれたらクビになっちゃうしね。」


びっくりして声も出ない俺に微笑みながら、颯爽と車を降りて行った。

ナンバーワン恐るべし・・・。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る