第16話 深夜3時の攻防
原則として、ドライバーからは仕事に関係あること以外は話しかけない。おそらく全国のデリヘルで共通のルールだと思う。中には必要事項以外一切会話禁止のお店もあるようだ(キャストから話しかけるのもNG)。
シンデレラでもドライバーからキャストに話しかけることはまずない。まあ、シンデレラの場合は話好きのキャストが多いので、雑談することは少なくない。
そんな中でも、ドライバーと会話をしないキャストもいる。すずめさんもその一人だ。車中でも挨拶以外は殆ど声を発することはない。そして上がりが3時を過ぎると極端に不機嫌になる。
ドライバーやキャストの中にも苦手にしている人は多い。俺も初日のトラウマがあり、苦手意識を持っていた。
とある日のこと。すずめさんを乗せた状態で移動中に事務所からラインが入る。時間は1時30分。
『すずめさんに今からB市で入れるか聞いてください』
B市までは車で普通に行けば30分以上かかる。一番短い60分コースなので3時の帰宅には間に合わない。
すずめさんに確認する。
「かなり微妙ね。2時までに現地に行ける?」
「頑張ります。」
すずめさんは渋々了承し、早速行くことに。
警察に捕まらない程度の運転で2時に現地はかなり微妙だ。ただ、ドライバーを始めてから、結構裏道を調べていた。
正規国道を通らず、若干遠回りになるがバイパスを走る。途中で降りて住宅街の中を突っ切った。多分事務所の誰も知らない道だ。ちなみに警察はほとんどいないし、道はある程度開けているので、いたとしても先に発見できる。
1時56分に現地到達。自分でもベストを尽くしたので、ちょっと嬉しい。
「到着しました」
「何?そのドヤ顔」
すずめさんがニヤリとする。初めて笑った顔を見た・・・。
そのまま待機し、60分後すずめさんを乗せて事務所に戻る。
清算のお金も準備して事務所につくと同時にすずめさんに渡した。
「おつかれさん。ありがとね。」
帰り際にありがたい言葉をいただき、俺の業務もそれで終了。
事務所の中に入り、事の顛末を店長に話したら、
「すずめさん、羽根田君のことは気に入ってるみたいだよ。ちゃんと仕事するって褒めてたから。今日も羽根田君じゃなかったら、最後の仕事断ってたかもね。」
そんな話を聞くとちょっとうれしい。その日を境に、すずめさんはちょっと態度が柔らかくなったそうだ。
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