第13話 ナンバーワンの憂鬱
まなつさん・・・、俺がシンデレラで働きだして最初に乗せたキャストだ。
彼女は基本的にシンデレラ所属だが、他の店もヘルプで入る。出勤が分散しているにも関わらず、シンデレラでは指名ナンバー1、他のお店でも出勤がサイトに載ったその日に指名でスケジュールが埋まるという、名実ともにシンデレラグループの不動のエースだ。
人気嬢と言えば、プライドが高くてスタッフやドライバーに対して高圧的な態度のイメージが強いが、実際はそうとも言えない。
人気嬢の多くに共通しているのは、気配りができることだ。
まなつさんはその筆頭だ。
送迎の途中で、コンビニに寄ればドライバーに飲み物を差し入れるし、降りて事務所に戻る時は、他のキャストが置きっぱなしにしてあるゴミやバスタオルを全て回収していく。
当然客にもその気配りを存分に発揮するだろうから、予約はほぼ満杯状態だ。
ある日の送迎のこと、遠方から事務所に戻る途中のことだった。他のキャストはおらず、俺とまなつさんだけ。
いつもニコニコしているまなつさんだが、今日は少し表情が暗い。
「羽根田さん、ドライバーって大変?」
急に問いかけられる。
「ホテルの場所を覚えるまでは大変でしたけど、それ以外は楽なもんですよ。」
「そっか・・・。」
その後はいつも通りの明るいまなつさんに戻り、他愛ない話をしながら事務所までの帰路に就いた。
ー
その次の出勤日の終わりに店長から衝撃の一言が。
「明後日は羽根田君出勤だよね?まなつさんもその日からドライバーになるので
研修宜しくね。まあ、だいたい分かってると思うから特に教えることはないと思うけど。」
寝耳に水だ。不動のエースがドライバー?
「ちょっと理解が追いつかないんですが、どういうことですか?」
「ちょっと色々あってね。しばらくキャストの方は休みたいんだって。詳しい事情は折を見て話すけど、とりあえず何も言わずに研修よろしくね。」
二日後、事情が呑み込めないまま、まなつさんの研修が始まった。
「羽根田さん宜しくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。」
研修なので、俺は助手席だ。まなつさんは軽快に車を走らせる。
運転は得意なようだ。
最初に乗せたキャストはマナさん。
「あ、今日からか!」
どうやらマナさんは事情を知っているらしい。名前が似ている二人だが、
仲は良い。プライベートでも遊んでいるらしいので事前に話していたのだろう。
その後も何人かキャストを乗せたが、皆最初はびっくりしていたが、その後は普通に馴染んでいた。
結局まなつさんのドライバー転向の理由はその日は分からないままだった。
つづく
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