第8話 問題児②

レイナ嬢を初めて乗せた日から1週間後、その日も俺は眠り姫のヘルプだった。


眠り姫所属のドライバーさんの急な休みで入ったシフトだったのだが、キャストの出勤も少なく、比較的のんびりした営業だった。指名客の割合が多い眠り姫では、人気のキャストが出勤しないと客数が減るのだ。


今日の事務所当番の社員は片桐さん、前回のレイナ嬢の時に対応したのも彼だ。

若いが仕事も応対も丁寧、俺の方が年上ということもあって敬語で話すナイスガイだ。


何人かキャストを入れ込んで、その後はぽっかり時間が空いたので、事務所で待機することに。もう一人のドライバーが動いているから、俺のヘルプはこれ以上必要なさそうだ。


事務所では片桐さんがコーヒーを入れてくれる。電話も鳴らないので二人で談笑していた。そうこうしているうちに1時間ほど経過。


「羽根田さん、今日はもう大丈夫そうです。ありがとうございました。この後はシンデレラに戻ります?それとも早めに上がります?さっきシンデレラの池永店長にラインしたら羽根田さんの好きにして良いとのことですが・・・」


じゃあ、上がります、と言おうとした矢先に事務所の電話が鳴る。

片桐さんが電話にでる。


新規のお客さんかな?遠方ならもうちょっと残ることになるかな?


そう思って様子を伺っていると、電話を受けている片桐さんの顔が曇っている。

電話相手の話している内容は聞こえないが、おそらくお客さんだろう。


声のテンションから察するにかなり不穏な感じだ。片桐さんがその場で土下座せんばかりの勢いで謝っている。



電話を終えた、片桐さんが渋い表情で口を開く。

「羽根田さん、本当に申し訳ありませんがもうちょっとだけ残って貰って良いですか?」

「良いですけど、どうしました?クレームですか?」


「はい。レイナさんのお客さんからのクレームです。レイナさん、普通にマッサージだけして帰っていったって・・・。」

「は?」


眠り姫はアロママッサージがウリの店だが、風俗店なのでいわゆる「抜き」は当然標準サービスの中に含まれる。たとえオプションなしでも抜きなしでの接客なんてあり得ない。


「お客さんもその場では言いたかったけど、ひょっとしたら勘違いかもしれないと思ってその場では言えなかったみたいです。店のHPを見直して改めて電話してきたそうです。」


「それはまずいですね・・・。」


「というわけで返金しますので、お客さんにお金を持って行って貰って良いですか?お客さんがお怒りのなので、向井さんより羽根田さんの方が良いと思います。」


今日入っているもう一人のドライバーは向井さん。内気であまり社交的ではない。確かに昼の仕事で人と話すのに慣れている俺の方が良いだろう。


というわけで、返金&謝罪に駅近くのビジネスホテルに向かうことになった。


つづく


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