第6話 M性感
さて、急遽ヘルプとなった俺はいばら姫の事務所に向かう。といっても車で1分の場所だが・・・。
事務所に着いて、中のスタッフに挨拶。例の中年男性とキャストが事務所にいた。
「おはようございます、ヘルプに来ました羽根田です。宜しくお願い致します。」
社長ということで若干挨拶も丁寧になる。ちなみにこの業界は昼夜を問わず出勤時のあいさつは「おはようございます」だ。
「よろしくお願いします。店長の鈴村です。業務内容はシンデレラと変わらないので、いつも通りお願いしますね。こちらは麗華さんです。」
「よろしくねー。後で送迎お願いね。」
挨拶を済ませ、早速仕事に入る。
M性感は女性が男性を責めるタイプの風俗店。基本的に男性からのおさわりなし、キャストがあの手この手で責めてくるというコンセプトだ。要は女性側がSということ。
Sの女性というと怖いイメージを持たれがちだし、俺もヘルプに入る時はかなり緊張していた。何なら全員すずめさん状態くらいに思っていた。
実際送迎してみると、やさしい。結構気を使って話しかけてくれたりもする。しかも結構な確率でジュースやお菓子をドライバーの俺に差し入れてくれる。この人たちが男性を責めてる図が想像できない・・・。
事務所に戻った時に鈴村さんにそのことを話したら、
「M性感って相手の好みを察知して喜んでもらわないといけないから、気を遣えない人じゃないと務まらないよ。特にうちの店はある程度実績のある女の子しか雇ってないからね。その分他の店舗より給料も高いし・・・。」
なるほど、勉強になります。
そうこうしているうちに勤務時間も終盤に差し掛かる。
最後に載せるキャストは麗華さんだ。隣の市で仕事を終えた麗華さんをキャッチに行く。
お金を受け取り車を出す。しばらく走ってから、麗華さんが口を開く。
「羽根田君、いばら姫はどうだった?」
「皆さん凄く優しいですね。新しいお店なのに仕事がガンガン入ってるのもうなずけます。」
「それは良かった。まなつやマナが凄く褒めてたから一度お仕事してみたかったの。で、池永に言って今日はヘルプに入って貰ったわけ。」
???
池永はシンデレラの店長だ。うちの店長を呼び捨て?そう言えば鈴村さん、自己紹介で店長って言ってなかったか?
とすると、現場でバリバリ働く社長って・・・。
「気づいたみたいね。私が社長の氷室麗華です。本名は別にあるけど仕事の時は源氏名で通してます。」
お前かい!と突っ込みが口から出そうになる。
「びっくりしたでしょ?池永が私のことを話してないって言ってたし面白そうだから、黙ってたの。」
「社長自らキャストとして働いているんですか?」
「まあね。新店だからちょっと心配でね。まあ、そろそろ社長業一本に戻すけど」
驚愕の事実だったが、なんとなく店の雰囲気を考えると、わからなくもない。
「坂下君にもお願いしてるけど、送迎してて気づいたことがあったら、教えてね。風俗一本で働いてる人だと気づかないことなんかもあるから。」
「わかりました。まあ、僕なんかで気づくことなんかは、ほかのスタッフやキャストの皆さんも気づくとは思いますが・・・」
「そうでもないのよね・・・。まあ、よろしくね」
ちょっと遠い目をする社長をルームミラー越しに見ながら、いろいろ聞きたいことを我慢して、俺は運転に集中することにした。
つづく
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