第2話 デビュー戦①
デリヘルの派遣先と言えば、1番多いのがラブホテル、その次に多いのがビジネスホテルなどの普通のホテルだ。
ビジネスホテルは本来、宿泊客以外は客室に入れない決まりがある。まあ、暗黙の了解でスルーの所もあれば、スタッフがしっかり目を光らせて入らせないホテルもある。
店側も当然その辺は把握していて、デリヘルが使えないホテルの情報は把握している。
俺のデビュー戦は、マナさんというキャストのキャッチから始まった。場所は駅前のグランドバーニーホテル。バーニーの名前で知られる、この地方都市では一番お値段の張るホテルだ(まあ、東京の高級ホテルに比べたら大したことはないが)。
ホテル前にロータリーがあり、送迎用のスペースとなっている。以前プライベートで友人を迎えに行ったことがあるので、問題なくロータリーに車を入れる。
サービス終了予定まであと10分。出てくる時間を入れても15分もあればキャストは戻ってくるだろう。
そう考えていた矢先、スーツに坊主頭の若い男が車に近寄ってきた。一見中肉中背だが、明らかに鍛えているのがわかる(ちなみに俺も空手の有段者だ)。
(ホテルのスタッフかな?でもここはデリヘルは止められないって言ってたはず・・・)
そう思いながら、男をもう一度見たが、目つきがサービス業のそれではない。
男は私が乗っている車に近づき、窓をノックし、一歩引いて手招きする。スタッフではないのは間違いない。
警戒しながら車を降りる。
「ここで何をしてるの?」
やや高圧的態度で男が尋ねる。
(何事?組織があるお店の縄張り的なやつ?しかもこいつ、耳も拳もつぶれてる。やっぱりただものじゃない。)
とりあえずデリのドライバーというのは隠しておくことに・・・。
「人を待ってるだけですけど、ホテルの方ですか?」
「待ってるのは宿泊の人?」
俺の質問を無視して、質問をしてくる。
(質問を質問で返すなぁぁぁ!)
ちょっとイラっとしたが、万が一ホテルのスタッフだったら不味いことになる。
「友人がここに用事で来てるんですが、ホテルの方ですか?」
男は胸ポケットから何かを取り出しこちらに見せる。
警察手帳だ。
「免許証を見せてもらっていいかな?」
手帳の中の写真まで律儀に見せながら男が質問する。
とりあえず、反社の人ではないらしい。素直に免許証を見せる。
「お兄さん、ほんとに人待ってるの?待ってるのはお友達?彼女?」
警察官がなおも質問する。
そういえば、職質の時は素直にデリヘルって言って良いって店長も言っていたな。
「すみません、デリヘルなんです。」
店の名前を聞かれて、警察官がすぐに電話。確認が取れてやっと放免となった。
「ここってデリヘルまずいんですか?ホテルから通報があったとか?」
「あーごめんね、今日は特別。海外の偉い人が泊ってるからね・・・。別にデリヘルは問題ないんだけど、今日は女の子待つなら敷地外が良いかもしれないね・・・。ナンバー覚えたから俺はもう大丈夫だけど」
こちらの素性がわかったのか、警察官の態度もフランクになる。
どうやら要人の警護でピリピリしているらしい。そういえば、どこかの大臣が来日してたな・・・。
警察官が離れてから、数分後にキャストのマナさんが車に戻ってきた。
「お疲れ様です。警察に絡まれてたでしょ?」
「お疲れ様です。そうなんですよ。びっくりしました。」
「海外の要人が来てるみたいだねー。私は止められなかったけどな・・・」
多分スーツっぽい服装だからだろう。
「新人さんでしょ?いきなりレアなケースに当たったねー」
「しかもこれが初送迎です・・・。」
最初の仕事でかなりのレアケースに遭遇してしまった私に初日の苦難がさらに降りかかることに・・・。
つづく
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