かぼちゃの馬車は今日も行く

@yongmoon

第1話 入店

「良い大学出てるね。羽根田君は車の運転は大丈夫?」

「はい。学生の時は運転代行のバイトもしていたので運転は問題ないと思います。」


「じゃあ、採用ということで。初日はいつから入れる?」


応募の電話から1時間、ショッピングモールの駐車場に止めた車の中で、俺の面接はあっさりと終了した。事務所には女の子の待機場所もあるのでセキュリティ上、ドライバーの面接は外で行うらしい。


体重100kgはあるであろう巨漢の店長は人の良さそうな笑顔を見せながら、初日のシフトの日程調整を思案している。


俺の初出勤は二日後に決まった。


「改めてまして、店長の池永です。明後日からよろしくお願いします。仕事の細かい内容は初日に教えていくことになると思います。」


俺は晴れて、デリヘル「シンデレラ」でバイトをすることになった。



二日後、夜7時から俺の初勤務はスタートした。この日は初日ということで、ほかのドライバーの車に同乗し、仕事の流れを把握するよう命じられた。


この日同乗させてもらったドライバーは坂下さん、俺と同年代で気さくな感じの人だった。


「羽根田さんも昼間は別の仕事してるんですよね?まあ、最初は緊張するとは思いますけど、難しい仕事ではないから楽に構えてていいですよ。」


「ありがとうございます。業種柄、怖い人ばかりかと思ってましたけど、皆さん優しい方ばかりで安心しました。」


「基本的には女の子に嫌われないことが一番大事だから、柄の悪い人や態度が横柄な人は残らないんですよ。まあ、基本的にはこちらからはしゃべりかけないでいいですけど、話しかけられたら丁寧に答えてれば大丈夫です。」


喋っているうちに、坂下さんのラインに指示が入る。

「まずはまなつさんのキャッチ(迎え)ですね。まなつさんは系列のアロマの店のエースなんですけど、シンデレラもたまにヘルプで入ってくれてます。こっちでも固定客が多いので、キャッチしてすぐに入れ込み(送り)になることが多いですね。」


そうこうしてるうちにホテル街に車が入っていく。「ROSE」というホテルに車を入れるとエントランスに立っていた金髪の細身の女性がこちらに歩いてくる。

ドアをあけ後部座席に乗り込みお金を差し出したあと、俺に話かけてくる。


「おはようございます(基本的に夜でも最初の挨拶はおはようございます)、新人さんですよね?まなつです、よろしくお願いします」

「おはようございます。今日からお仕事させていただく羽根田です。よろしくお願いいたします。」


さすがエース、ドライバー相手にも丁寧な対応・・・。


「まなつさん、次は帝インで180分ですね。」

「はーい。羽根田さんはおいくつですか?」


その後は帝インに着くまで質問攻めにあった。

程なくして入れ込みが終了し、次の嬢のキャッチへ向かう。


「まなつさん、元気でしょ?」


「凄いですね。人当たりも良いし、さすがエースといった所ですね。」


「お客さんだけでなくドライバーにも気を使ってくれるのでスタッフからも

人気があるんですよ。」


「正直ヤンキー崩れみたいな人ばかりだと思ってたので、安心しました。」


「まあ、彼女は特別です。皆あんな娘ばかりなら良いんですけどね・・・。」


坂下さんの一言で色々と察する。要はヤンキー崩れもいるということか・・・。


この日は3時間程度、坂下さんの横で教えてもらい、業務は終了。当面やるべきことはキャスト(嬢)の名前とホテルの場所を覚えることのようだ。


まあ、運転は苦手じゃないし何とかなりそうかな・・・。そう思っていた私は、デビューの日から予想外の洗礼を受ける羽目になるとは予想もしていなかった・・・。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る