第2話 予想もつかない偶然とフェイク話
二十歳の私 より子は居酒屋のバイトを辞め、今度は有名しゅうまい店「麗味」(れいみ)のアルバイトを始めた
繁華街にある小さな店だったが 繁盛していたが
忙しいし 客筋がよくない上に 時給が安いので
辞めていく人が絶えなかった
最初は皿洗いだったが のちにホール廻りに回された
ある日 客から「五分待っても シュウマイが出てこないじゃないか」
と苦情がでた
私は平身低頭して客に頭を下げたが 客はプイとして勘定もせずに
店を出て行った
また「この油 腐ってるんじゃないか」などと苦情をいう客が
耐えなかった
そうしたこともあり 店長一人では賄いきれなかったのだろう。
店長の補助として新入りチーフが入店してきた
まあ もっとも店長やチーフといっても一年契約 私たちバイトは
一か月契約の契約社員 エリアマネージャーに
「契約満了であり明日から来ないでいい」と
言われればそれで一巻の終わりであるが
朝礼のとき 新入りチーフを見て仰天した
なんと若い女性をだまし AV強制出演をさせるという
とんでもない噂の一見イケメン風の三十歳の男だった
ただし その噂が事実かどうか 真偽のほどは確かではない
事実 私も喫茶店で歌詞を書いていると その男が声をかけてきたが
そのいかがわしい噂を聞いて 背筋がゾッとした感触が今でも
明確に覚えている
男は さすがにチーフだけあって 店長の指示通り仕事はまともにこなしていた
昼休み チーフからカフェに誘われた
「僕のこと 覚えてる? 僕のよくない噂 聞いてるでしょう」
チーフの方から声をかけてきた
私は軽くうなずいた
「僕がAV強制出演詐欺男なんていうのは とんでもない誤解というか
中傷ですよ。実は僕は 以前女性店長と少々ケンカになったが
その腹いせに女性店長はそんなデマを流したんですよ。
でも証拠がないのでうやむやな結果に終わったがね。実はその女性店長は サラ金いや闇金に借金があり 僕の下手な接客のおかげでヤクザまがいの客から 帰りの駅で待ち伏せされ 自宅まで乗り込んでこられたなんてことがあり、その闇金の取り立て屋から、僕がAVのスカウトマンの経歴があったなんてことを入れ知恵されたんですよ。幸か不幸か、僕は麻薬で引退した俳優Tに似ているでしょう。その俳優Tは元AVのスカウトマンだったという経歴の持ち主だったんですよ。
だって今、闇金から借金すること自体が犯罪だし、もし女性店長がクビになるとももう取り立て不可能。だから女性店長は、闇金の取り立ての言いなりになって動くしかなかったんですね」
より子はびっくりした。へえ、そんなフェイク話が存在していたのか。
そういえば、チーフは麻薬で捕まった元俳優Tに酷似している。
「しかし、そのいかがわしい噂が原因で、会社のエリアマネージャーが僕の部屋にやってきて警察の家宅捜査の如く 痴漢もののAVがないか、またレンタルビデオ店で借りた形跡があるかどうかも調査にきたんですよ。全く大災難でしたよ。でもこのこ
とで誤解が解けましたよね」
チーフは溜息をついた。
「でも その女性店長もつくづく不運な人でしたがね。だって以前、AV女優の芸名に女性店長の本名が使われていたというのだから」
私は思わず身を乗り出した
「えっ 本当ですか? なんという名前ですか?」
「星川より子という名前ですよ。まあ後に女性店長はAV会社に問い合わせ、女優の芸名を変えてもらいましたがね。そして女優からも星川より子さん、ごめんよ。私芸名を変えたからねというメッセージがありましたがね」
えっ、より子は再び驚いた。苗字こそ違うが、より子は私と同じ名前ではないか。
世の中には 予測もしない偶然やフェイクが蔓延している。
もしかしてこういった偶然が 針小棒大の如くフェイクになっていくのだろうか。
私はすっかり弱気になった。
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