第6話 元アウトロー牧師のキリスト弟子となる

 俺は、菅田牧師のようになれるものなら、なりたいと思った。

 牧師の著書のなかで、麻薬中毒になったことがあったと記してある。

 こんなことは、チンコロ(警察に密告すること)よりも、勇気のいることだ。

 だって、読者はあくまで一般人だ。自分とは別世界の怖い世界のアウトローだということで、白い目で見る人もいるだろう。

 以前は、そう思われることが相手をビビらし、恐怖感と威圧感を与えることで、相手を恐喝し、それが商売道具となっていたのであるが、フランチャイズ店のロゴマークのような代紋を失くし一般人となった今では、ブラックイメージを抱かれたら、誰も相手になってもらえない。

 しかし、菅田牧師は現在、一般人に交じってというよりも、講壇に立って一般人を相手に福音(キリストの良き知らせ)を述べ伝えているのである。

 俺もできたら、そうなりたい。いや、神は不可能なことはないのだ。

 神は、水に沈んで当然の金槌をも、泳がせるお方だ。

 神が人間をつくったのだから、俺も神によって、以前とは違う姿に復活できることが可能なはずだ。


 俺は菅田牧師についていきたいと思った。

 いわゆる弟子稼業のようなものである。

 でも、イエスキリストでも十二弟子がいたのだから、俺も菅田牧師の弟子になってもなんら不思議はない。

 そのことを、菅田牧師に正直に話したら、快く受諾してくれた。

 そして、そう思っているのは俺だけではなく、俺の同類、元アウトローと三人で、教会の近くのプレハブ住宅で、弟子生活を送ることになった。

 

 俺は、このことを元兄貴分に報告した。

 てっきりバカにされるだろうと思ったが、意外な返事が返ってきた。

「俺は嬉しいよ。これで竜夫は、もう誰かの命を狙うこともなくなったし、また狙われる心配もなくなったんだから。俺とは、別世界の住人になったけど、命がけで新しい道を生きていくんだぞ」

 まさか、そんな激励の言葉をもらえるとは、思ってもいなかった。

 俺は、この兄貴分のために、とりなしの祈りをした。

「どうかイエス様、私の兄貴分が回心して、救われるときがきますように。アーメン」

 しかし、その瞬間、フラッシュバックが俺を襲った。

 いわゆる麻薬の後遺症である。頸椎(首の骨)がずれたり、幻覚症状になるのである。悪魔は、なんとかして、神から俺を引き離そうとしているのだろう。

 しかし、俺はひるむことなく祈り続けると、いつのまにかフラッシュバックは消え、元の正常な頭脳に戻った。やはり、神は俺を元の健康な身体に戻してくれたのだ。いいようのない感謝と喜びがこみあげ、それが新たなパワーになる予感がした。

 

 菅田牧師は、伝道のためには、命をも惜しまない度胸にあふれたお方である。

 アウトロー組織から追われ逃亡生活を送っているとき、なんとその組織の本拠地に等身大の重い十字架を背負い、十字架伝道に行くことになった。

 背中に十字架を背負って繁華街を伝道するという、非常に派手で目立つことを目的とした、革命的ともいえる伝道方法である。

 アウトロー組織の団体は、大借金を抱えた自分を血眼になって捜しているに違いない。もし、見つかったらどうしよう。

 まさに飛んで火にいる夏の虫ではないか。

 ああ、今度こそ俺ー菅田牧師ーは、アウトロー組織に殺されに違いない。しかし、人間、いつかは死ぬんだ。いくら逃亡しても、いずれは組織に見つかり捕まえられるときが訪れる。それだったら、イエス様と心中するつもりで、十字架伝道に出掛けようと決心したという。このことが原因で殺されても、アウトロー時代の野垂れ死にではなく、立派な殉教になるだろうと、覚悟を決めたという。


 大きな十字架を背負って繁華街を行進していると、予想通り自分-菅田牧師ーを捜している組織の連中が、なんと真ん前から風を切って歩いてきた。

 見るからに高価なブランド物のスーツ、一見インテリで上品そうに見えるが、やはり尋常ではない緊張感に満ちたオーラを漂わせている。

 一般人が見ると、インテリサラリーマンか、はたまた体育教師のように見えるだろう。しかし、同業者から見ると、弓矢がビンビンに張ったような、独特の雰囲気が漂っているので、一目でアウトローとわかるのである。

 ああ、これで自分-菅田牧師ーも一巻の終わりだ。アウトロー連中にかかれば、アウトロー事務所に拉致監禁され、リンチを受けるだろう。

 しかし、なぜか恐怖感は感じなかった。神の為なら死ねるという覚悟が、俺を強くしたのだろう。

 なんと、アウトロー連中は自分の顔をチラッと見て通り過ぎていったのだった。

 アウトロー時代の神を信じる前の自分と、神を信じてからの私とでは、顔立ちこそ変わらないが、顔つきはすっかり温厚なものとなったので、アウトロー連中も気づかなかったに違いない。

 アウトロー連中は、あれほど血眼になって自分を探していたというのに、まるで目くらましのような奇跡が起こったのである。

 きっと、神が自分の後ろ盾になって下さったに違いない。


 俺たちアウトローにあるものは、刺青、前科、麻薬歴、ないものは学歴、職歴、右手の小指、要するに、一般人にあって当たり前のものが欠如し、あったら困るもの、無くて当然のものが身体中に、いや人生にべったりと張り付いているのだ。

 しかし、神様を信じている菅田牧師は、そんな困窮した状況下のなかで、神様と共に立ち直り、自らの教会をもって牧会をなさっている。

 

 

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