第3話 絶望状態だった俺を誘った悪の正体

 しかし、俺が寿司を奢ってもらったとき、そのおじさんがアウトローの親分だと聞かされた時は、耳を疑った。

 世間で言われる、柄の悪い怖い不良の成れの果てといった戦闘的なイメージの一切ない、インテリ風紳士だったのだ。

 俺は、そのインテリアウトローについていこうと思った。

 俺の中学時代のディスコ友達は、みな反対した。

「いくら行き場のない不良でも、アウトローだけは真っ平御免」

「ほら、よくVシネマになるじゃん。行き場のない世間知らずの若者をうまく利用した挙句、最後は麻薬漬けにし、証拠を消すために殺してしまうような場面が。

 俺たちみたいな、法律の知識のない奴は、捨て駒にされるだけさ」

 実際、頭の片隅では友人の言うとおりだとは、重々承知していたが、そのときは、父親のいない寂しさもあったのだろう。

 俺の話を聞いてくれるやさしいおじさんに父性を感じていた。


 俺は、有名アウトロー団体と杯を交わすことになった。

 俺の所属した組は、大きな組織ではあったが、インテリのいる組ではなく、武闘派集団だった。

 アウトローの世界は、所属した組のために自分を犠牲にして、いかに尽くすかがモットーである。

 親分の命令は絶対死守しなければならない。親分が白いカラスが飛ぶといえば、明らかにブラックである非常識な悪事でも、清廉潔白を演じ従わねばならない。

 また、アウトローになるための修業もあり、一朝一夕で簡単になれる世界では、決してない過酷な世界なのである。

 

 アウトローになる為の修業、それは厳しく恐ろしいものだった。

 たとえば、座禅の如く、二十四時間正座をさせられ、頭から氷水をすごい勢いでぶっかけられるが、声をあげたり、首を動かしてはならない。

 また、外出するとき、何時何分何秒になったら、携帯で連絡せよ。

 まさに、秒単位で拘束されるのだ。それを破った先輩アウトローは、親分に日本刀で斬りつけられ、拳銃で撃たれていたが、今から思えばこれは、新人アウトローに対する見せしめだったに違いない。

 もちろん、日本刀と拳銃の練習は欠かせない。

 自衛隊、いやそれ以上の厳しい訓練だ。

 ただ、自衛隊など一般の世界と大きく違う点は、親分の命令はもちろんー明らかに逮捕されるような犯罪であるがー絶対だということ、そして、自分の裁量で金を稼ぎ、フライチャイズ店の如く組の看板を利用し、それを上納金として組に納めることである。

 なにも知らない素人連中は、アウトロー世界にスカウトされると、組織から給料が出るなんて、ラクして金が儲かるなんて甘い考えをもっている無知な連中もいるが、それは大間違いである。

 上納金を治められない人は、借金という形にり、その恐怖心から麻薬やクラブ通いに走るのだった。


 あっ、やばいな。暴露しすぎかな。でも、これくらいのことは、もう週刊誌J話でも公にしているから大丈夫だよね。

 まあ、Tダネ最前線のように、アウトロー専門誌もあるし、警察の青少年非行防止の警告にも書かれているから、ギリギリセーフというよりも、現代はもうアウトローの時代は終わったよね。

 組の大看板ともいえる代紋を出した時点で逮捕、そしてアウトローと関わりがあると言った時点で、営業停止をくらうものね。

 

 俺は、学もないから、インテリ部門に回されることなどは、到底不可能だった。

 暴対法(暴力団対策法)以来、いわゆる組の代紋で一般人を脅して金を巻き上げるということは、不可能になった。

 それまでの時代は、水戸黄門の印籠の如く、組の代紋さえだせば、一般市民はアタッシュケースを差し出したものだが、今はかえってそれが仇となった。

 組の名前を一言だそうものなら、警察にパクられる時代である。

 だから、昔流行った「M暴の女」の如く、法律を研究し、法律の裏側を巧みに駆使して、一般人から詐欺を行うのだ。


「M暴の女」をご覧いただいた方はご存じだと思うが、言葉遣いも研究されている。

 俺はそんなことのできる役柄ではなく、つい手が出そうだ。

 しかし、管理売春なんてことはしなかったぜ。

 だいたい、強姦なんて俺の性には合わない。そんなことをしなくても、俺は自他共認めるイケ面なんだから。

 その当時は、十万円のスーツを着て、時計もローレックスだったぜ。

 

 麻薬は一度体験すると、よほどのことがない限り、やめられやしない。

 だから、儲かるんだ。



 

 

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