第2話 ホスト恐喝をするワル女

 メイド喫茶は通常のカフェと違って、指名制度というのもあり、指名の多い子は、それだけ時給もアップする。

 よし、頑張るぞと思ってた矢先だった。

 金髪に近い茶髪を逆立て、デニムパンツにTシャツという軽装の男性客が二人入って来た。

 なんとなく、見覚えのあう顔、あっ高校時代のクラスメートだった彰人だ。

「いらっしゃいませ。ご主人様、ご注文は何にいたしましょうか」

 彰人と目と目が合った。

「あっ、お前、可合 笑香か」

 いくら濃い化粧をしていても、やっぱり一年間顔を合わしたら、わかるよね。

「そういう彰人こそ、派手になっちゃって、この髪型、ホストみたいだね」

 仕事中、私語は厳禁なので、この辺でオーダーをとって席を離れようとした。

「これ、渡しとくよ」

 彰人が、四隅の丸まった名刺を私の手に握らせた。「クラブ凛 悠馬」と明記されていた。


 仕事は五時で終わりだ。帰りには、この前行った中華料理店彩香へ行って、三品くらいテイクアウトして、家でおかんと一緒に味付けの研究をしなきゃ。

 そんなことを考えながら、店を出た途端だった。

「おい、声を出すな」

といいながら、女子プロレスラーのような体格の屈強な二人の女が、私の腕をつかんだ。

「なにするんですか。あんた達は何者ですか」

 そう言い終わらないうちに、女二人は、私を人気のない路地に連れて行った。

「おい、メイド女。私の悠馬を盗るんじゃないよ。悠馬は私の男だよ」

「えっ、なんのことですか?」

「とぼけるんじゃないよ。さっきの男、お前に名刺を渡した男だよ」

 あっ、高校時代のクラスメート彰人のことだ。そういえば、名刺には「クラブ凛 悠馬」って書かれてあったっけ。

 そうか、読めたぞ。彰人はやはり、予想どおりホストをしているんだ。そして彰人にメロメロになり、店に通い詰めてる女性客が、私に嫉妬してるんだ。

 その女の形相は、どこかもの悲しく感じられる。

 そのときだ。彰人がやってきた。

「おい、お前ら、いい加減ホストを利用して、恐喝するのやめろよ。警察には通報済みだぞ」

 その時、警官がやってきて、女二人は取り押さえられた。

「私らが悪いんじゃないよ。私らはただ、金をもらってやっただけよ」

「そうだよ。もっと悪い奴がいるんだよ」

 警官は、二人の腕をつかみ、パトカーに乗せた。

「話は署でゆっくり聞こう」

 深刻な顔の警官に、笑香は世の中の複雑さを感じた。

「河合さん、大丈夫だった? あいつら、俺たちホストの名を利用して、小遣い稼ぎしているとんでもない野郎だよ」

 笑香は、ようやく我にかえった。

「もうびびっちゃったよ。でも、ホストの名を利用して小遣い稼ぎってどういうこと?って詳しく教えてよ」

 彰人は、ため息をつきながら言った。

「俺たちホストって、イメージ悪いだろ。特に警察からマークされてる店が多いのは事実だ。だからその悪いイメージを利用して、あのホストは私の彼氏よ。他の女は手を出すな。もし、逆らう真似をしたら承知しないぞ。金と引き換えにしろ。なんておかしな言いがかりをつける奴が出没し始めたんだ。ホストだったら、何をされても警察には通報しないだろう。ホストも客も泣き寝入りするしかないなんて、とんでもないことを、考えてやがるんだ」

 笑香は呆れて言った。

「全く、世の中いろんな犯罪があるものね」

 彰人も、納得したように言った。

「世の中、油断もスキもございません。世間のスキに付け込まれないうちに、俺たちホストを好きになって時間の隙間をつくってぜひ来店してほしいですね」

 笑香は、彰人のダジャレに思わず微笑んだ。

「そうしたら帰りには、すき焼きおごってくれるなーんちゃって、それがムリならまぐろのスキ身でもガマンするよ。そのダジャレ、イケそうイタダキ」

「河合ってさ、ひょっとして女芸人でも、目指してるの?」

 笑香は、ちょっぴりはにかんで言った。

「ん、それはまだ秘密」

「俺の知り合いで、ある深夜番組のスタッフをしている奴がいるんだ。今売り出し中の、若手芸人がメインの素人参加番組だけどね、面白い素人を募集してるんだって」

 ふと笑香は、チャンスが巡ってきたと思った。


 神様は、私の夢を見捨てはしない。

「でも、一週間になんと二万件の応募アクセスがあるんだ。一応、スタッフに伝えておこうか。連絡先を聞いていいかな?」

 笑香は喜んで教えた。これが夢のスタートラインになるかもしれない。


 その日の報道番組に早速、私を襲った女二人のことが報道された。

 もちろん、他にも被害者はいるという。

 私は画面を見たとき、驚いた。

 なんと五年前、中学二年のとき、行方不明になったお父さんだ。

 お父さんも、恐喝の被害者の一人だったのだ。

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